社労士・中小企業診断士・税理士にどの業務を誰に依頼するべき?それぞれの違いを徹底解説!

社労士・中小企業診断士・税理士にどの業務を誰に依頼するべき?それぞれの違いを徹底解説!

社労士、中小企業診断士、税理士は専門知識を駆使して会社経営の手助けをしてくれるスペシャリストです。この3者がそれぞれどのような分野のスペシャリストなのか、今ひとつよく分かっていない人もいるのではないでしょうか。そこで今回は、3者の専門分野や任せるべき業務、業務を依頼した場合のメリットとデメリットについて詳しく解説します。

社労士・中小企業診断士・税理士の違い

社労士・中小企業診断士・税理士の違い

社労士・中小企業診断士・税理士を活用するためには、3者がどういった分野における専門知識を有しているかを知っていなければなりません。そこで、まずは社労士・中小企業診断士・税理士の得意分野はどのような領域なのか、詳しく解説します。

社労士の得意分野

社労士は労働と社会保険に関する専門家です。社労士を名乗るためには国家試験に合格しなければなりません。社労士の得意分野には就業規則の作成や労災保険・雇用保険など保険の手続き、労働法に関する書類の作成、障害年金の申請、労務管理に関するコンサルティングなどがあります。このうち就業規則の作成、保健の手続き、労働法に関する書類の作成、障害年金の申請は社労士にしか業として行うことが許されていない独占業務です。また、会社と労働者の間でトラブルが生じた際、裁判になる前に話し合いを行う裁判外紛争解決手続(ADR)という制度があります。この制度に関わることができるのは、社労士の中でも特定社労士に認定された社労士だけです。

中小企業診断士の得意分野

中小企業診断士も社労士と同じく国家資格です。資格試験に通るためには、中小企業の経営に関する幅広い知識を有している必要があります。中小企業診断士に社労士のような独占業務はありません。中小企業診断士であるということは、幅広い知識を有していることを国から認められている、ということなのです。そのため、中小企業診断士は「経営コンサルタント唯一の国家資格」ともいわれています。中小企業診断士の役割は中小企業の経営課題に対して診断や助言を行うことです。具体的には、企業が成長戦略の策定を行う際の助言を行います。また、無資格でも可能な補助金の申請を手伝うこともあります。そのほか、幅広い知識を駆使して企業と行政や金融機関とをつなぐパイプ役としても活躍します。

税理士の得意分野

税理士も社労士や中小企業診断士と同じく国家資格です。税理士はその名の通り、税務に関するスペシャリストだといえます。税理士の得意分野は企業のお金に関することです。確定申告や税務調査の立ち合いといった税務のほか、税務書類の作成、税務に関するコンサルティングなどを行います。また、税務に付随する業務として会計業務を請け負うことも多いです。税理士にも社労士と同じように独占業務があり、税務の代理、税務書類の作成、税務に関するコンサルティングを業として行うことは税理士にしか許されていません。たとえば、確定申告についてアドバイスを受けたり代わりに作成して提出してほしい場合には、税理士以外に依頼することは原則禁止されています。

社労士・中小企業診断士・税理士 それぞれに任せるべき業務

それでは、中小企業の経営者は社労士・中小企業診断士・税理士それぞれにどのような業務をどのようなタイミングで依頼すればよいのでしょうか。詳しく解説します。

社労士に依頼したほうが良い業務

社労士に依頼すべき業務は、人事や労務に関する業務です。会社の就業規則を作成する際に相談できるのは社労士だけです。また、従業員の入社や退社の際の厚生年金保険や雇用保険といった各種保険の手続きも社労士に依頼できる業務です。それらの業務に加えて、従業員の給与計算や勤怠管理を請け負っている社労士も多いです。

ほかにも、たとえば従業員との雇用契約の締結方法を知りたい場合に社労士に意見を聞くことができます。労災が発生してしまった際の各種手続きも社労士に依頼できます。コンサルティングにおいては、就業規則の作成に関することに加えて労働環境づくりに関する助言をもらえるでしょう。

中小企業診断に依頼したほうが良い業務

中小企業診断士が行えるのは企業の経営状況診断とその診断に基づく助言です。そのため、経営に関するアドバイスが欲しい場合には中小企業診断士に依頼するとよいでしょう。たとえば、より精度の高い事業計画書を作成したい場合や、中長期的な成長戦略に関するアドバイスが欲しい場合などです。こうした助言は社労士や税理士に依頼することはできません。なぜなら、社労士は税に関することについては助言ができないし、税理士は人事や労務に関して助言することができないからです。よく経営においては「人・モノ・金」という3つの経営資源が大切だといわれます。この3要素を踏まえ、経営者に助言できるのは中小企業診断士だけです。

税理士に依頼したほうが良い業務

税理士に依頼できるのは税に関する業務です。たとえば、決算・税務申告を滞りなく行いたい場合が挙げられます。実際、確定申告を行う際には税に関する専門知識が必要です。会計ソフトなどを導入しても上手に使いこなせないケースもあります。

また、不要な税金を洗い出して節税をしたい場合にも税理士に相談するとよいでしょう。税理士は決算書や資金繰り表を見ながら節税対策や削減すべき経費、設備投資を行うべきタイミングなどについてアドバイスしてくれます。そのほか、事業承継の際にも税理士のサポートが頼りになります。税理士に相談すれば、自社の事情に応じた事業承継計画を策定してくれます。

社労士・中小企業診断士・税理士に依頼するメリット・デメリット

社労士・中小企業診断士・税理士に依頼するメリット・デメリット

社労士・中小企業診断士・税理士に業務を依頼する際には、あらかじめメリットとデメリットを把握しておくことが大切です。ここからはどのようなメリットとデメリットがあるのか、それぞれ詳しく解説します。

社労士に依頼するメリット・デメリット

社労士に業務を依頼するメリットとして国や自治体が行っている助成金の申請代行を依頼できることが挙げられます。厚生省が行っている助成金の代行は社労士にしか依頼できないからです。さらに、予防法務の観点からもメリットがあります。予防法務はあらかじめ経営者と労働者の権利義務関係を明確化しておくことでトラブルを回避する、という考え方です。社労士が就業規則の作成に関わることがこの予防法務につながります。一方、デメリットは費用が発生することです。助成金の申請代行の際にも、社労士に依頼すると着手金と助成金の何割かを報酬として渡さなければなりません。また、顧問として依頼すれば毎月数万円の顧問料を支払うことになります。

中小企業診断士に依頼するメリット・デメリット

中小企業診断士は経営に精通しており、かつ実務経験も有しています。そのため、依頼すれば経営者の右腕としてさまざまな視点から分析した計画書を作成する手助けをしてくれるでしょう。補助金についても詳しいので補助金の選び方や申請方法についてもアドバイスをもらえます。

一方、デメリットはミスマッチが生じる可能性があるということです。経営に関する判断は簡単にできるものではありません。だからこそ、経営者と中小企業診断士はよくコミュニケーションを取り合って情報を共有し合うような関係を構築していく必要があります。関係構築ができていないまま話を進めてしまった場合、期待した成果との不一致が起き、結果的に報酬が無駄になってしまう可能性があります。。

税理士に依頼するメリット・デメリット

税理士に依頼するメリットは正確性です。自分で税務を行うよりも、税理士に依頼したほうがより確実な税務が期待できます。また、税理士を雇っていることで会社の信用度が上がるでしょう。一方、税理士を雇うことにより費用が発生する点はデメリットになります。依頼する業務が多ければ多いほど、税理士に支払う顧問料や報酬も高くなります。顧問料や報酬が高すぎて資金繰りが悪くなってしまっては意味がありません。また、税金に関する対応や対策内容は多様にあるので、税理士にはそれぞれ得意分野があることを知っておく必要があります。税理士とのミスマッチが生じた場合、期待した効果が得られないかもしれません。

社労士に依頼せず内部で対応する方法

人事や労務の業務を社労士に依頼せずに自社の内部で対応しようとした場合、どのような方法があるのでしょうか。考えられる主な対策をいくつか紹介します。

クラウドツールを入れて労務業務を効率化する

人事・労務の業務についてはさまざまなクラウドサービスがあります。そうしたサービスを活用することで業務の効率化をはかることができるでしょう。サービスを導入する際にはサービス範囲やサポート体制、既存ツールや外部ツールとの連携の可否についてしっかり検討しておくことが大切です。

また、せっかく導入したのに使いづらく使われなくなってしまうと業務の効率化にはなりません。クラウドツール導入前に運用担当者にデモ画面を使用させる操作性を確認しておくことも重要です。そのほか、扱う情報が人事情報である以上、ツールの取り扱いには慎重でなければなりません。クラウドサービスは社外に個人データを保存することになる、ということをしっかり認識しておきましょう。

労務業務ができる人材を置く

社内に人事や労務の業務ができる人材を配置する、という方法もあります。人事労務の業務を経営者が行っている場合には担当者を設置することで大きな負担軽減となるでしょう。実際、事務要員は他の業務と比較しても応募者が集まりやすいといわれています。また、社内に業務を遂行できる人材がいた方が業務プロセスが見えやすい、というメリットもあります。ただし、新たに人材を雇う際にはそれなりのコストがかかることを忘れてはなりません。社員への給料として年間で300~400万円程度の人件費がかかるほか、育成のための研修費用もかかります。新たに人材を雇った場合の費用と社労士に依頼した場合にかかる費用をよく比較することが大切です。

中小企業診断士に依頼せず内部で対応する方法

中小企業診断士に依頼せず内部で対応する方法

中小企業診断士の場合も、自社内部で対応する方法もあります。具体的にどうすればよいのか、いくつか対策を紹介します。

経営相談の範囲や内容を明確にする

中小企業診断士に経営の相談をするといっても、あらゆることを相談していてはコンサルティング費用が嵩みます。そのため、まずはどのような課題について相談をしたいのか、その範囲や内容を明確にしましょう。そうした作業を行うことによって自身で解決策を見つけることができるかもしれませんし、仮に中小企業診断士に相談するにしても必要最小限のことですみます。また、人事労務に関することであれば社労士に、税務のことであれば税理士に相談することができます。既にそうした専門家に業務の依頼をしている場合には、中小企業診断士に依頼する必要があるのかどうかをよく考えましょう。

経営アドバイスを受けた後の実行体制を整えておく

中小企業診断士と契約を結ぶ際、契約方法は大きく定期訪問型とスポット型に分けることができます。定期訪問型は毎月1回の定期訪問に加えてオンラインサポートなどを受けられる契約です。一方、スポット型は補助金申請や経営課題に関するアドバイスについてそれぞれ個別に料金を支払うというものです。仮に中小企業診断士に経営に関するアドバイスを仰ぐとしても、それは一度きりのスポット型ですむようにしましょう。そのためには、経営アドバイスを受けた後、行動に移すための実行体制をしっかり整えておくことが大切です。

税理士に依頼せず内部で対応する方法

税理士に依頼せずに自社で税務を内製化したい場合には、一体どのようにすればよいのでしょうか。考えられる対策をいくつか紹介します。

クラウドツールを入れて税務業務を効率化する

税務業務も人事労務と同じようにクラウドサービスを活用できます。さまざまな企業がクラウドサービスを提供しているので、その中から自社に合ったものを選びましょう。選ぶ際には自社で使用している銀行口座やクレジットカードなどに対応しているか、サポート体制は充実しているか、機能が直感的で分かりやすく使いやすいか、といったポイントを踏まえて検討することが大切です。また、一般的にクラウド会計サービスと呼ばれているものは財務に関する業務を行うもので確定申告などの税務を行うものではありません。税務処理を行う際には会計サービスとは別に税務申告サービスを活用する必要があります。両者の連携が可能かどうかもチェックしておきましょう。

経理・財務の仕組みを作る

経理や財務の担当者を雇い入れて社内に経理・財務の仕組みを作るのもひとつの方法です。経理・財務を内製化することは情報の漏洩リスクを減らすだけでなく、何らかのイレギュラーが発生した場合の対策をしやすい、というメリットがあります。その一方、デメリットは人件費や研修費というコストがかかることが挙げられます。加え、業務が属人的になってしまう可能性があります。たとえ優秀な事務員を雇うことができたとしても、何らかの理由でその社員が出社できなくなった場合には誰も経理・財務の業務ができない、ということになってしまうかもしれません。

内製化が難しい場合はアウトソーシングも視野に入れる

内製化が難しい場合はアウトソーシングも視野に入れる

内製化するためには人員の確保をしなければなりませんし、人件費や設備導入費用というコストもかかります。そのため、先に挙げた内製化のための体制づくりが難しいという企業も多いでしょう。そのような場合には、アウトソーシングを視野に入れましょう。自社でできないことを外部に委託すれば社長や社員が会社のコア業務に集中できるようになりますし、場合によってはコスト削減にもなるかもしれません。外部の専門的な知識を活用できるという利点もあります。

重要なことは、内製化のメリットとデメリットとアウトソーシングのメリットとデメリットをよく比較することです。自社にとってよりメリットがある方を選ぶことが何よりも大事です。

専門家が持つノウハウの活用は会社の発展につながる

社労士や中小企業診断士や税理士はそれぞれの分野において専門知識を有するスペシャリストです。上手に活用すれば会社の発展に大きく寄与する存在となってくれるでしょう。とはいうものの、会社の状況によっては業務を内製化して自社にノウハウを蓄積させたほうがよりコストが安く将来のためになるかもしれません。大切なのは自社の人員や財政の状況をしっかり把握し、より自社に合った方法を選ぶことです。

記事の監修者

【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】

株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊

中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。