企業で事業を展開し、規模を拡大していく上で避けて通れないのが税務です。多くの企業は税理士の力を借りて、決算報告や税務申告などの業務をこなしています。しかし、税理士の数は限られていますから、自社で税理士を雇用するのは非常に困難となるでしょう。そこで選択肢として浮上するのが業務委託です。今回は、税理士に委託できる業務や、税理士に業務委託を依頼する際のメリットやデメリットなどについて解説します。
税理士に業務委託できる仕事の範囲
税に関するスペシャリストである税理士には、様々な仕事を業務委託することが可能です。今回は数ある業務の中から、経理・会計事務業務にスポットを当てて紹介します。
税金に関する申告や申請の代理(税務代理)
納税者の代理人となって、税に関する様々な申告や申請を行う業務です。具体的には、確定申告書類の提出や、青色申告の申請などを納税者の代わりに行います。税務署の更正・決定に対して不服がある場合の申し立てなど、税務署とのやり取りを代行するのも税理士の役目です。確定申告書や相続税申告書といった申告書類を作成する業務も委託できます。
決算申告
決算日に行う決算残高の確定と税金の計算、各種決算書の作成といった一連の決算作業や、それに付帯する申告についても税理士に依頼することが可能です。税理士に決算業務だけを委託することは可能なので、決算業務のみを委託して依頼費用を抑えるという方法もあります。
経理・記帳業務
日々の業務の中で発生するお金のやり取りを管理し記録する経理・記帳業務を税理士に委託することも可能です。個人や企業が提出したレシートや領収書、支払伝票や入金伝票といった証票を税理士に送付すると、税理士が会計システムにデータ入力を行い、帳簿を作成します。税理士が作成した帳簿は税理士が署名捺印を行うため、税務署から帳簿について問い合わせがあった場合、税理士側で対応してもらえる事は覚えておきましょう。
税務調査支援
企業が正しく税額を申告しているかどうかを税務署が調査する際に、必要となる書類を作成したり調査当日に立ち会いを行ったりすることも税理士に依頼することができます。また、申告の際に「税理士法33条の2書面添付」が行われていれば、税理士が税務署に出向いて意見陳述を行うことで調査を省略してもらうことも可能です。
会計ソフト導入
税理士の中には、会計ソフトのベンダーからアドバイザーとして認定を受けている人もいます。会計ソフトを導入する場合、認定アドバイザーである税理士から要件定義や導入するシステムと業務プロセスにおいて、必要とする機能がマッチしているかを分析する「Fit&Gap」を行う際にアドバイスを受けることも可能です。
その他
融資・資金調達支援、起業支援、事業承継や相続に関する対策、経営のアドバイスなどといった業務についても、必要に応じて税理士に請け負ってもらうことができます。経理や経営関係で委託したい業務があれば相談してみると良いでしょう。
税理士と代行業者に業務委託した場合の特徴の違い
経理の外部委託先は、税理士と代行業者(非税理士)の2つに分かれます。税理士と代行業者の決定的な違いは、「独占業務」の有無です。税理士は税理士法で定められた国家資格を持っており、国から税の分野についての専門性を法的に担保されています。そのため、税理士にだけ認められた業務を行うことが認められているのです。この「税理士にだけ認められた業務」を総称して独占業務、もしくは税理士業務といいます。
税理士業務は税務申告の代行と税務申告書の作成代行、税務相談の3つです。非税理士がこれら3つの業務委託を受けることは違法であり、もしも代行業者が業務委託を受けてこれらの業務を代行してしまった場合は法律で罰せられます。よって、経理業務を外部委託するにあたって、業務委託内容に税理士業務を含めたい場合は、必然的に税理士一択となるため注意が必要です。
ただ、記帳代行などの税理士業務に該当しない業務を代行してもらう場合、業務量によっては代行業者に依頼したほうがコストを抑えられるケースも存在します。記帳代行だけ行って欲しい、決算書の作成のみ依頼したいというような場合は、代行業者に業務委託を行うとよいでしょう。
一方で、将来的に税理士業務の業務委託を視野に入れている、節税などの観点で税の専門家の力を借りたいというケースの場合には、多少コストをかけてでも税理士に依頼したほうが良い場合もあります。自社の現時点における状況や今後の展望などをしっかりと考慮した上で、税理士と代行業者のどちらに依頼をしたほうがよいかを判断するとよいでしょう。
税理士と会計士に業務委託した場合の特徴の違い
税理士と同様に会計に関する国家資格を有する職業としては、公認会計士が存在します。では、公認会計士と税理士の違いとは何でしょうか。
それは、管轄する独占業務の違いです。税理士は税務申告に関する業務を独占業務としていますが、公認会計士は「監査」を独占業務としています。企業が会計基準や会社法、金融商品取引法などの法律に違反していないかを第三者目線でチェックすることが公認会計士に認められた業務です。つまり、税理士が「税務」の専門家であるのに対して、公認会計士は「監査」の専門家であると言えるでしょう。
ただし、公認会計士は一定の要件を満たしていれば、税理士として登録を行うことも可能です。実際、公認会計士の中には税理士登録を行い、税務に関する業務委託を受けている人もいます。税理士と公認会計士の両方の資格を持っていますから、両方の独占業務を行うことが認められているのです。そのため、監査と税務の両方について業務委託を考えている場合は、税理士登録を行っている公認会計士に依頼するとよいでしょう。
監査が必要となるのは上場企業など一定以上の規模を誇る大企業である場合が多く、中小企業は監査の必要がないことがほとんどです。そのため、中小企業は税理士と公認会計士のどちらに委託しても内容はほぼ変わらないと考えられます。将来的に上場を視野に入れている、規模が拡大してきて監査が必要となる可能性があるなどの事情がない限りは、無理に公認会計士を探す必要はありませんし、公認会計士と税理士の違いについて特段意識する必要も無いと言えるでしょう。
税理士に業務委託するメリット
税理士に業務委託を行うことで、どのような恩恵を受けることが出来るのでしょうか。以下では税理士に業務委託するメリットについて解説します。
時間を節約できる(本業に集中できる)
確定申告書の作成や決算業務などは、納税する当事者である自社だけで行うことも不可能ではありません。また、記帳や経費精算といった業務も自社で賄うこと自体はできるでしょう。しかし、マンパワーや時間がそれなりにかかりますし、申告期限などの期日に追われるあまり本業がおざなりになってしまう可能性もあります。税理士に業務委託を依頼することで、これらの業務を自社で行う必要はなくなりますから、その分時間を節約することが可能です。
また、記帳や申告、経費計算以外にも、給与計算や請求書の発行業務などもワンストップで依頼を受ける税理士も少なくありません。これらの業務をまとめて委託することで、時短効果はさらに高まるでしょう。本業に関係ない税務業務や決算作業などを専門家に依頼することで、それまでこれらの業務に割いていた人員や時間をコア業務に集中させることができますから、業務の効率を向上させることにもつながります。
正確に申告できる
税理士に業務委託を行うことで、正確な税務知識に基づいて作成された申告書を提出することが可能となります。もしも税務知識に疎い状態で申告書を作成して提出してしまったら、漏れや抜けなどの不備を税務署から指摘されて、書き直しなどの手戻りが発生する可能性があります。専門家である税理士の力を借りることは、結果として書類不備による手戻りやそれによって発生する時間と労力のロスを防ぐことにつながるのです。
また、確定申告書には税理士の署名捺印欄が存在し、税理士が確定申告書の作成と提出を行った場合は税理士の署名と捺印が入った確定申告書が提出されることになります。この署名捺印によって確定申告書の正確性を担保できる他、仮に税務署側から疑問点が指摘された場合も税理士が納税者の代わりに疑問点に対する説明を行うため、税務調査対策の観点から見ても税理士への依頼はメリットがあると言えるでしょう。
税理士に業務委託する場合のデメリット
税理士に業務委託することにメリットがあることは上記で説明したとおりですが、逆に税理士に業務委託を行うことで発生するデメリットはあるのでしょうか。以下では、税理士に業務委託をする場合のデメリットについて解説します。
費用がかさむ
税理士に業務委託を行う場合は、当然ながら報酬を支払わなければなりません。報酬額は委託する業務の量によって変わり、委託業務が増えるとその分税理士に支払う報酬も増えていきます。無計画に何でも業務委託をしてしまえば、その分莫大な金銭的コストがかかってしまうでしょう。負担を少なくするコツは、委託する業務が多くなるほどに業務をピンポイントで依頼することです。これにより、コストを節約しつつ時短を図ることが可能となるでしょう。
コミュニケーションが必要になる
税理士は社外の人ですから、会社の状況を全て把握しているわけではありません。委託された業務をこなしている中で不明点が出た場合は、税理士側から質問や確認のための連絡が行われるでしょう。その結果、メールや電話によるやり取りを頻繁に行うことになります。特に業務委託を開始して間もない頃は税理士側もクライアントに関する情報があまりない状況ですから、質問や確認の頻度も多くなります。しかし、長く契約していれば税理士側もクライアントに対する理解度が深まり、確認の頻度も減っていきます。税理士側の業務を円滑に進めるためにも、確認や質問に対しては真摯に対応することが重要です。
自社の経営状況への関心が減る
税理士に記帳業務や決算作業を委託していると、試算表や決算書の作成を自社で行わなくなるため、売上目標や資金繰りをどうするかといった判断を行うためのノウハウが蓄積されません。結果として、試算表や決算書を見ても読み方がわからず、売上や資金繰りの状況把握や判断が後回しになる可能性もあります。契約内容にもよりますが、税金計算や申告業務を主たる業務と位置づけている税理士は経営アドバイスを積極的に行わないというケースも少なくありません。税理士に全て任せてそれっきりにならないように、試算表や決算書の読み方について最低限の知識は持つようにしましょう。
税理士に業務委託した場合の報酬と相場
税理士に業務委託を行う場合は、依頼の費用としてどれくらいの予算を割くかを考えなければなりません。以下では、税理士に業務委託をした場合の報酬の相場価格について見ていきましょう。
税理士にかかる費用はどう決まる?
税理士の報酬は、「顧問料」「各種作業料金」「オプション費用」の組み合わせによって決まります。顧問料は業務委託契約の期間中にかかる月々の費用で、顧問料の範囲内でどこまで業務を行うかは税理士事務所によって異なる点に注意が必要です。
また、税務申告や決算作業といった、年に1度の決まった時期のみ発生する業務を委託する場合は顧問料がかからないケースもあることは覚えておきましょう。各種作業料金は記帳の代行や確定申告の代行など、委託された業務を実施する上で発生する費用で、顧問料とは別に請求されるケースが多いです。また、オプション費用を支払うことでコンサルティングや届出の作成を行うとしている事務所も存在します。
会社の売上高や規模によっても報酬が変わる
税理士の報酬を決めるファクターは、会社の規模や売上高といったものもあります。企業の売上が大きいほど取引数や納税額も大きくなるものです。納税額の大きい法人が業務委託を行った場合、委託を受けた税理士は重い責任を負うことになります。その責任を担保するためにも、税理士は規模が大きい企業や売上高の高い企業に対しては高額の報酬を要求するのです。税理士に業務委託の依頼を行う場合は、自社の売上高がどれだけあるのかも意識すると良いでしょう。
法人が税理士に業務委託した場合の報酬例
では、実際に税理士に業務委託を行った場合どれくらいの費用がかかるのか、具体例を挙げながら見ていきましょう。
まず、年商1,000万円〜3,000万円の企業が決算申告のみを委託したケースについて考えていきます。この場合、確定申告の代行料が約5万円~10万円前後、消費税申告の代行料が約2万円~5万円前後で、その他資料作成などの金額も含めて合算すると、決算申告の作業料金は年額で約13万円~15万円前後が相場となります。
これに加えて記帳代行も依頼した場合は、顧問料として月額で約1万5,000円〜3万円前後、記帳代行の作業量が月額で約7,000円〜1万円前後が加算されます。決算申告と合算した場合の相場は、年額で約39万円〜63万円前後となるでしょう。
税理士に業務委託する前に考えたいポイント
無計画に税理士に依頼をしてしまうと、担当した税理士とのミスマッチが発生したり、予想外に高額な費用がかかってしまう恐れがあります。以下で説明するポイントを抑えた上で税理士選びを行いましょう。
税理士に依頼する内容を明確にしておく
税理士に業務委託を依頼するにあたっては、まず自社にとって委託が必要となっている業務は何かを洗い出すところから始めましょう。領収書や請求書の整理を委託したいのか、税務署等への法定資料の作成と提出を行ってほしいのか、コンサルが必要なのかによって、契約内容も報酬も大きく変わります。依頼内容をしっかりと固めた上で税理士探しに取り掛かるようにしましょう。
委託したい事務所の規模や実績を確認する
委託したい事務所が個人事務所なのか法人なのかを確認することも重要です。事務所の規模によって税理士がどれだけの業務をこなせるかが判断できます。また、税理士ひとりひとりに得意な業種や分野、苦手な業種や分野があるため、過去にどのようなクライアントからの依頼を請け負ってきたか、普段請け負っている業務はどのようなものかなどについても確認しましょう。
税理士や税理士事務所との相性を確認する
税理士や税理士事務所との相性も重要です。顧問契約を結ぶ場合は年単位の長い付き合いになりますから、相性が悪ければお互いに信頼関係を築けず、相談をしたくてもできない事態になってしまうこともあるでしょう。信頼性、安心感、コミュニケーションの取りやすさといった面を確認するためにも、業務委託契約を締結する前に一度面談を行って確認することをおすすめします。
実際に依頼したらいくらか見積もりをとる
自社の業種や依頼したい業務の分野に明るく、自社との相性も良好という税理士が見つかったとしても、実際に支払う報酬と用意していた予算が大きく乖離している場合は無理が生じることでしょう。税理士事務所のWebサイト上で実施している無料相談を利用したり、料金体系を確認して予算との乖離がないかを検討することをおすすめします。また、複数の税理士事務所から費用の見積もりをとると、相場感の把握やサービス内容の比較検討がしやすくなるでしょう。
まとめ
税理士に税務業務や記帳業務などの業務委託を行うことで、業務の効率化や正確な申告が可能となるメリットがあります。ただ、税理士に全てを任せきってしまうと自社の経営状況の把握がおざなりになってしまう恐れがあるため注意が必要です。業務委託を行う際には、自社との相性や支払う費用などを検討して税理士を選ぶことをおすすめします。税や経理に関する業務のプロである税理士は、きっと自社の大きな力になることでしょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。