社労士に助成金に関する相談や申請の代理を社労士に頼むべき?その費用感とメリット・デメリットを徹底解説!

社労士に助成金に関する相談や申請の代理を社労士に頼むべき?その費用感とメリット・デメリットを徹底解説!

厚生労働省が主管している助成金制度は、従業員を雇用している経営者にとっても心強い仕組みです。定められた条件を満たしていれば、基本的に支給が決定される助成金は、審査結果により申請が通らない場合もある補助金よりも先読みがしやすく、経営上で有利な面もあります。

申請業務等を代行してもらいたいと考える企業様の場合、申請の代行は社会保険労務士(社労士)でも担当する事ができます。実際に、社労士に代行を依頼するべきなのでしょうか、それとも自社でこなすべきでしょうか。

社労士と助成金の関係とは?

社労士と助成金の関係とは?

助成金対応は社労士の専門分野の一つ

社労士の仕事は、法律の条文(社労士法2条)で列挙された3種に分類され、それぞれ1号業務、2号業務、3号業務と呼びます。このうち、1号業務と2号業務が、社労士にしか代行が許されていない「独占業務」です。具体的には行政機関に提出する申請書類等の作成や、帳簿書類の作成などで、助成金申請の対応業務もここに含まれます。

助成金申請のために必要な書類を揃え、求められた記入等を完了させ、無事に提出まで漕ぎ着けるには、多くの書類のやり取りや整備など、複雑で大量の作業量が求められるものです。通常業務に追われて多忙な企業の方々にとって、こうした業務は相当な負担となってしまいます。

社労士が扱う助成金の種類とは

社労士が専門で取り扱うのは、厚生労働省管轄の雇用関係助成金です。この雇用関係助成金制度は、企業活動をサポートする場面ごとに、さらにいくつかの種類に分かれています。

キャリアアップ助成金は、社内での肩書きや役割が固定化されがちな非正規雇用(アルバイト、パート、派遣労働者)の従業員について、企業内でキャリアアップを図れるような取り組みを実施した企業経営者に対して、その費用の一部を助成する制度です。より具体的には、非正規から正社員へ登用したり、労働環境や処遇を改善したりするための施策です。

時間外労働等改善助成金は、従業員の労働生産性を高めながら、全社的な労働時間の短縮(残業や休日出勤などの削減)を目指して取り組む中小企業に対し、その必要経費の一部を助成する制度です。より具体的には、AIなどを搭載し、従業員の労働負担を軽くする新規ソフトウェアの導入や、労働生産性向上の専門家によるコンサルティングやワークショップ、セミナーなどを受ける取り組みなどです。

人材開発支援助成金は、従業員のスキル向上、専門知識習得、ひいてはキャリアアップを図るための各種職業訓練を新たに導入する中小企業に対し、その必要経費の一部を助成する制度です。各従業員が自発的に自分の知識や技能を高めるための時間を与える教育訓練休暇制度を導入する場合も、この助成の対象となります。

その他、高年齢者(満60歳〜64歳)、障害者、母子家庭の母親など、新たに会社で働くことが一般に難しいとされる求職者を雇用した企業に対して助成する制度も多数用意されています。これらの雇用関係助成金の申請を代行できる国家資格が唯一、社労士のみなのです。

社労士に依頼するメリットとは?

社労士に依頼するメリットとは?

助成金の申請を、自社で無理に進めず、社労士に依頼したときのメリットとして考えられるのは、次の通りです。

不支給になる可能性を低減できる

助成金は、必要な条件さえ満たせば基本的に支給されるものですが、書類に不備があると認定されれば不支給となってしまいます。そこで、不支給となりうる原因を事前に見つけて修正できる専門家の力を借りるのが得策です。

助成金の申請には、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿という「法定三帳簿」の提出が必須となります。いずれも法律上、企業には作成と一定期間の保存が義務づけられていますが、知らず知らずのうちに不十分な記載となっているケースもあるのです。その不備を社労士は前もって指摘し、必要に応じて軌道修正させることができます。

助成金によっては、就業規則の提出が求められる場合もあるのですが、その提出がしばしば忘れられがちです。助成金を申請する書類に記載する内容についても、社労士が代行すれば、申請先の労働局やハローワークの指針を理解し、適切な解釈で記載できます。

本業に専念できる

助成金の申請代行を社労士に依頼せず、事業主や社員が自ら申請準備を進めようとすれば、様々な試行錯誤や不明な点の確認で時間を取られ、通常業務に支障をきたすおそれがあります。もし、助成金の申請に必要な就業規則の作成や雇用契約の締結などを会社が忘れていれば、改めて整備する手間が追加で掛かってしまいます。その点、普段から助成金申請の手続きに慣れている社労士が進めれば、無駄なく効率的に申請を完了できます。

就業規則などの整備ができる

助成金の申請に必要な法定三帳簿や就業規則、雇用契約書などに何らかの不備があったり、作成そのものを忘れていたりすれば、改めて作成や修正に対応する手間がかかります。これも助成金申請を依頼する機会に併せて、社労士に整備を依頼すれば、専門家としての知見を借りて適切かつスピーディーに完成させることができます。つまり、助成金の申請をきっかけに、会社経営の体制を健全な形に整えられるのです。

助成金の最新情報をキャッチアップできる

助成金の主な財源は、各企業が納めている雇用保険料ですが、その予算にも限りがあります。年度が変わるタイミングで、内容が改訂されたり、廃止が決まったりする助成金制度も少なくありません。せっかく助成金申請のための大変な準備を進めていたのに、知らないうちに制度そのものが廃止されていたということが起きないよう、最新情報を確認することが重要です。最新情報は厚生労働省のWebサイトで調べられますが、本業で忙しい事業主や社員が、助成金の最新情報をキャッチアップすることは困難です。

その点、社労士に前もって相談すれば、それぞれの会社の事情に適した助成金を案内してもらえます。特に新型コロナ対策関連の助成金など、緊急を要するものは年度途中でも新たに発表されることがあります。そのため、助成金の専門家である社労士が持つ情報網を、できるだけ頼りたいところです。

社労士に依頼するデメリットとは?

社労士に依頼するデメリットとは?

助成金の申請を社労士に依頼すれば、便利で効率的に進められますが、決して無視できないデメリットも存在します。具体的に挙げると、次の通りです。

社労士への報酬費用が発生する

専門家である社労士に依頼する以上、その対価として報酬を支払わなければなりません。ほとんどの場合、業務をスタートするために支払う「着手金」と、無事に助成金を受給できたときに支払う「成功報酬」という、2段構えの報酬体系となっています。自社で申請すればこれらの経費が浮きますので、助成金をフルに使うことができます。

社内に申請ノウハウが蓄積されにくい

中小企業の経営者の中には、助成金を資金繰りの重要な柱として位置づけている方もいます。まとまった資金が必要となった局面では、銀行からの融資などで資金調達する経営者もいます。助成金制度について隅から隅まで知り尽くしていれば、返済不要の資金をノーリスクで手に入れることも可能です。

もし、社労士に一連の申請業務を依頼し続けていれば、こうしたノウハウが社内に蓄積されづらくなります。経営者が社労士に相談したときには、会社の状況にぴったりの助成金の申請がすでに締め切られていて、重要なタイミングを逃すこともあるのです。たとえば、特定の信頼できる社労士と顧問契約を結んでいれば、助成金申請のタイミングを逃す失敗を極力減らせます。

社労士に依頼する場合の注意点

顧問社労士への対応可否について

助成金申請をする際には、受給要件を満たすため、必要に応じて就業規則を改訂したり、社内の労働環境を適切に整備したりする必要が生じる場合があります。できれば、社労士とは助成金だけのスポット契約ではなく、継続的な顧問契約を結べれば、より万全の態勢を整えることができるのです。

そもそも、社労士がカバーする業務は助成金関連だけではありません。適切な賃金体験の整備や、健康保険、雇用保険、年金、人事部門へのコンサルティングなど多岐にわたりますので、顧問社労士がいれば、これらの業務を総合的、継続的に頼むことができるのです。ただし、顧問契約書の中で、対応業務の範囲が限定されている場合があります。契約締結の前に必ず注意して確認しておきましょう。

社労士であれば助成金対応に必ず長けているとは限らない

社労士の人口が増えるにつれて、専門性や得意分野を設けているケースも珍しくなくなりました。「社会保険専門」の人もいれば「労務専門」の人もいます。そのため、助成金を一度も申請したことがない社労士も存在します。助成金の申請は成功報酬の契約が多く、もし書類の不備などで助成金を受けることに失敗すれば、報酬を取り逃すリスクがあるためです。それで助成金制度に詳しくなければ、無理に手を出さない社労士も多いのです。

また、助成金を業務範囲に含めている社労士であっても、しばらく対応していない助成金や、新しくできた助成金に関する知識が曖昧になっている人もいます。そのため、正式に依頼する前に、相談を持ちかけましょう。直近の新たな助成金の特徴と内容などを理解しているか、また、過去の申請実績があるか、相談の中で前もって社労士に確認しておくことが賢明です。

助成金取り組み時のチェックポイント

助成金取り組み時のチェックポイント

受給条件の確認

雇用関係助成金は、中小企業が助成対象です。そのため、経営規模が比較的大きな企業は助成を受けることができません。
ここでいう中小企業の基準は、業種によって異なります。

  • 小売業(飲食業を含む)……資本金5,000万円以下・常時雇用従業員数50人以下
  • サービス業……資本金5,000万円以下・常時雇用従業員数100人以下
  • 卸売業……資本金1億円以下・常時雇用従業員数100人以下
  • その他の業種……資本金3億円以下・常時雇用従業員数300人以下

また、中小企業の事業主も、助成金の受給につき、次の条件を満たしていなければなりません。

  • 雇用保険の適用事業主であること
  • 支給のための審査に協力すること
  • 申請期間内に申請を行うこと
  • 労働保険料を納入していること
  • 3年以内に不正受給をしていないこと
  • 支給申請後に不正受給をしていないこと
  • 支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令の違反(不当解雇など)がないこと

申請資格の確認

様々な助成金がある中でも、厚生労働省が提供する雇用関係助成金の申請を代行できるのは、社会保険労務士に限られていることは、冒頭で述べたとおりです。しかし、経済産業省(中小企業庁)などが主管する補助金や、厚労省以外が主管する助成金は、社労士でなくても申請代行ができる点は、念のため留意しておきましょう。

社労士の報酬相場

報酬額は法定されていませんので、それぞれの社労士ごとに自由に決められますが、大まかな相場は、着手金で「2~5万円」、成功報酬で「助成金額の10~15%」とされます。着手金ゼロの社労士もいますが、その分、成功報酬が高めに設定されているものです。
顧問社労士に補助金申請を依頼する場合であっても、顧問料と別に着手金と成功報酬を要します。ただし、相場よりも安めに設定されているケースもあります。

社労士に依頼する以外の方法

全て社内(自分)でやる

助成金の申請は、必ず社労士を通さなければならないわけではありません。社労士に依頼するかどうかは、各社それぞれの任意な判断に委ねられますので、社内で申請に必要なすべての準備作業を行うこともできます。この場合、追加の金銭的負担がありませんが、会社の通常業務に加えて、助成金申請に特有の事務負担が従業員にのしかかります。トータルでかかる手間や時間外手当などの人件費を考慮すれば、社労士に依頼するよりも支障が大きくなるおそれがあるのです。

社労士に限らず、専門家に依頼するかどうかは、「時間をお金で買う」ことのメリットも考慮した上で検討する必要があります。

バックオフィスアウトソーシングに依頼

今までは社内に部門を設置することが当然だと考えられてきた、経理・人事・総務などのバックオフィス業務も、現代ではアウトソーシングで専門会社に依頼できるようになりました。このようなバックオフィス業務専門会社は、助成金対応が得意な社労士とも連携していることが多いので、社労士選びから、申請に必要な書類整理事務まで、一括して依頼することができます。

助成金を申請したい中小企業にとっては、最も簡単に済む方法ではありますが、社労士の報酬に加えて、バックオフィスアウトソーシングの費用もかかるため、必要な金銭的コストは最も高いです。せっかく助成金を受け取れても、事実上、その金額が目減りしている点には注意してください。

まとめ

まとめ

助成金の申請代行を専門の社労士に頼むと、最新情報に沿って適切かつスピーディーに準備作業を済ませて、確実に助成金を受給できるメリットがあります。一方で、社労士に申請代行を頼むと、助成金に関するノウハウが社内に蓄積されないデメリットもある点は注意が必要です。

社労士に申請代行を頼む際には、助成金の申請について十分な知識や経験を持っているか、前もって無料相談などで確認しておきましょう。助成金は自力で申請することもできますが、慣れない従業員が進めると時間がかかり、本業に支障が出るおそれがあります。報酬などのコストが一時的にかかったとしても、確実に業務遂行するためには専門家に相談することが賢明な判断です。

記事の監修者

【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】

株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊

中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。