人事や総務の業務は量も多く、専門的な知識やスキルが必要となります。この記事では、資格やスキルをはじめとした人事や総務の業務に必要なものから、人事や総務担当者の採用を成功させるポイントを解説します。従業員のキャリアアップや各分野の人手不足に悩む経営者の方も、ぜひ参考にしてください。
人事・総務とはどのような仕事なのか?
会社の仕組みや人材にかかわる部門である人事と総務は、業務内容も似ていると感じる人も多いでしょう。任せたい業務内容に応じた人材を採用するのが重要です。まずは人事と総務の違いをおさえておきましょう。
人事は会社の人材にかかわる業務を担います。人材の適正な配置や教育、採用活動や評価、さらに従業員の給与や勤怠管理などが業務内容です。
総務は会社の組織運用のサポートを行う部署です。職場の備品の管理や社内外の行事への対応、防犯や防災対策などを行います。また会社の窓口としての役割も持ち、来客や問い合わせへの応対も総務担当者の業務のひとつです。
人事や総務業務に求められるもの
人事や総務業務は多岐にわたり、業務上では専門的な知識が求められることもあります。また、特定の能力やスキルがあることで、業務も円滑に進められます。人事や総務業務に求められるものを知り、適性のある人材の採用につなげましょう。
基本的なパソコンスキル
人事や総務業務両方とも、パソコンを使用して業務にあたります。ExcelやWordなどのソフトを使って書類作成や入力のできる、基本的なパソコンスキルは必須です。
コミュニケーション能力
人事と総務、いずれの部署でもコミュニケーション能力が求められます。人事は人材の適切な配置や評価も担う部署です。採用業務で多くの求職者と接する機会も多いでしょう。職場環境や従業員の就業状況を正確に把握するためには、おのずと多くの人とかかわらなければいけません。総務は社内外の窓口として、同じく多くの人と日常的に接します。人と上手にコミュニケーションが取れる人材なら、人を通じての業務も円滑に進められるでしょう。
几帳面さ
人事も総務も重要書類の管理や作成、給与や経費の計算などを業務として担います。取り扱う業務はいずれも正確さが求められるため、与えられた業務を正確に、確実にこなせる几帳面さや真面目さを持つ人材に適性があります。
バックオフィス業務が苦にならない
企業の運営に欠かせない人や組織作りにかかわる重要な業務を担っています。ただし、営業や企画のように会社の利益には直接かかわらない部署のため「自分の仕事で大きな成果をあげた」という達成感は、ほかの部署よりも得にくいかもしれません。利益や成果など見えづらいバックオフィス業務でも、コツコツと毎日正確にこなせる人材なら、人事や総務に向いていると言えるでしょう。
資格はあると有利だが、適性やキャリアがより重要
人事や総務は業務上で組織経営や就労、保険などの専門的な知識が求められることも多いです。人事や総務にかかわる資格を取得していると専門的な知識がある証明となりますが、資格の有無よりも、人事や総務の仕事への適正があるかないかを重視しましょう。
またすでに人事や総務の経験を持つ人材を採用すれば、即戦力として期待できます。ただし、人事や総務の業務は多岐にわたるため、自社で任せたい業務を取り扱った経験があるかどうかを見て、採用に活かしましょう。たとえば自社で「採用活動」の人材が不足しているなら、「採用業務経験」のある人材を採用することで、適切な人材の採用につながります。
人事や総務業務は資格がなくてもできますが、業務を進めるうちに「もっと多くの業務を任せたい」ということもあります。人事や総務の担当者のスキルやキャリアアップのために、資格を取得させるのは有効です。担当できる業務の幅が広がるため、経営者が行っていた一部業務を分担し、経営に関する本業へ専念することもできます。
人事担当者のキャリアアップにおすすめの資格5選
働き方改革による働き方の多様化を受け、人事担当者には社員のメンタルヘルス管理やスキルやキャリア形成のアプローチがより求められるようになりました。人事担当者のキャリアアップには、社員の働き方をサポートできる資格のほか、従来の人事業務にも必要となる年金や医療、雇用保険などの基本的な知識が身に付く資格の取得がおすすめです。
キャリアコンサルタント試験
従業員のキャリアプランの立て方や、キャリアに関する課題や悩みに対してアドバイスを行い、将来のビジョンを明確にするサポートをする「キャリアコンサルタント」としての資格です。2016年より国家資格となりました。筆記のほか実技試験もありますが、3年以上の実務経験や指定の講座を修了すると免除となります。
メンタルヘルス・マネジメント検定(Ⅱ種)
社員のメンタルヘルス管理に必要な知識を得られるのが、メンタルヘルス・マネジメント検定の資格です。Ⅱ種はメンタルヘルスに関する基礎知識、部下からの話の聞き方、助言の方法など部門内、上司としての部下のメンタルヘルス対策の推進を行うための知識が身に付きます。企業のストレスチェック制度が義務化されたため、今後ニーズの高まりが期待できる資格です。
社会保険労務士
年金や医療、雇用保険と幅広い知識が身に付くため、人事・労務管理のほか年金の専門家としても活躍できる国家資格です。取得すると「労働社会保険諸法令に基づく申請書等及び帳簿書類の作成」「申請書等の提出代行」「申請等についての事務代理」などの独占業務ができるようになります。
出題はすべてマークシート方式であるものの、合格率は例年6%前後の難関資格です。
人事総務スキルアップ検定
社会保険労務士と同じように、人事や労務管理、年金などにまつわる幅広い知識を習得できる資格です。こちらは3級および2級なら認定講座を修了するだけで資格が取得できます。資格の勉強やスクールに通う時間はないけれども、人事としてのキャリアアップや資格取得を目指したいときにも向いています。社会保険労務士の受験対策のために取得するのもおすすめです。
産業カウンセラー
メンタルヘルスやキャリア形成、職場環境や人間関係など、職場で発生するさまざまな課題を自らの力で解決できるサポートを行う、産業カウンセラー育成を目的とした資格です。産業カウンセラー養成講座を修了するか、大学院で心理学関連の所定の専攻を修了し、所定の科目の単位を取得、または大学院研究科において、心理学または心理学隣接諸科学、人間科学、人間関係学のいずれかの名称を冠する専攻の修了者が受験資格を得られます。学科試験と実技試験に合格すれば取得可能です。
総務担当者のキャリアアップにおすすめの資格5選
総務担当者のおもな業務は、組織づくりのサポートや従業員が快適に働ける職場環境の整備です。経営、法律やコンプライアンス、労務管理など幅広い知識が求められます。多くの資格取得を目指そうとすると勉強時間や費用のコストが多くかかるため、業務で必要となる範囲の適切な資格を取得するのが良いでしょう。
働き方改革検定
働き方改革に取り組む企業なら、ぜひ取得しておきたい資格です。働き方改革によるさまざまな課題解決のための知識を身に着けられます。得たい知識や業務の領域に応じて、以下の7つの試験を選んで受験可能です。
- 働き方マスター試験
- 働き方マネージャー認定試験
- 労働法務士認定試験
- ストレスチェック検定
- 認定ハラスメント相談員Ⅰ種試験
- ハラスメントマネージャーⅠ種試験
- 女性活躍マスター試験
働き方マネージャー認定試験は、働き方マスター試験の内容も含まれる上級試験となっています。働き方改革を進める際のリーダーを育成したいときにも向いている資格です。
マイナンバー実務検定(2級)
2016年1月から開始されたマイナンバー制度にて、業務上のマイナンバーの処理や管理の方法を学べる資格が、マイナンバー検定試験です。3級〜1級のどの級からでも受験可能であり、ダブル受験もできますが、企業での実務で活用できるレベルを目指す場合は2級以上を取得するのが良いでしょう。試験内容は知識を問うものが中心で、実技はありません。機密情報であるマイナンバーを取り扱ううえで、ぜひ取得しておきたい資格です。
衛生管理者
常時50人以上の従業員がいる事業者での配置が義務付けられているのが、衛生管理者です。衛生管理者資格は職場環境を衛生的に整えるための知識が得られる資格で、特にコロナ禍においてニーズが高まっている傾向にあります。厚生労働省でも、感染防止対策の検討にあたって、安全衛生委員会や産業医、衛生管理者を交えた組織の有効活用も推奨しています。
受験には労働衛生の実務経験が必要です。正答率6割以上で合格と難易度も低めのため、総務担当者として最初にチャレンジする資格としても向いているでしょう。
ビジネスキャリア検定
各職種の業務に必要となる知識の習得および実務能力の評価を目的とした資格がビジネスキャリア検定で、略称の「ビジキャリ」でも知られています。企業法務や総務領域をはじめ、以下の8つの分野から自分の職種に合ったものを選んで受験できます。
- 人事・人材開発・労務管理
- 経理・財務管理
- 営業・マーケティング
- 生産管理
- 企業法務・総務
- ロジスティクス
- 経営情報システム
- 経営戦略
企業法務・総務領域では会社全体のマネジメントに関する知識、人事・人材開発・労務管理では従業員からのキャリア相談にも対応できる力も身に着けられます。等級はBASIC級、3級、2級、1級とあり、部門長を狙う人には1級がおすすめです。試験形式は2級までがマークシート方式で、1級は選択式ではなく論述形式となっています。
中小企業診断士
総務としてのキャリアが長くなるときにおすすめの国家資格です。企業の経営に関するコンサルティング力を養える資格で、取得することで企業と行政、金融機関などとのパイプ役も担えるようになります。専門性が高く、試験はマークシート方式の一次試験と筆記の二次試験があり難易度も高くなっています。合格率は例年20~30%とやや低めです。なお取得後は5年ごとの資格の更新が求められます。
人事・総務の人材を確保できない場合の方法
「採用活動を行うだけの余裕がない」「今すぐ人事や総務の業務を任せたい」「人材育成のコストをかけられない」などの理由で、教育をともなう人事や総務の人材を確保できない場合もあります。自社の人事や総務の業務を行う労力をすぐに確保したいときに、おすすめの方法を解説します。
人事や労務に関する業務なら社労士に依頼する
社会保険に関する業務や就労規則の作成、給与計算など人事や労務に関する業務なら社会労務士(社労士)に依頼する方法があります。特定の業務だけ依頼する「スポット契約」のほか、長期的に人事や労務に関するサポートも受けられる「顧問契約」も選択可能です。
ただし、依頼したい業務に強みのある社労士や、自社と相性が良い社労士を選ぶ必要が出てきます。契約内容や業務内容によっても異なりますが、当然コストも発生します。場合によっては依頼した業務内容とコストが見合わないこともあるでしょう。特に顧問契約を検討するときには、長期的に発生する費用対効果を得られるかどうかを確認する必要があります。
アウトソーシング(外注)を検討する
人事や総務の業務を代行できる、アウトソーシング(外注)を利用する方法があります。人事や総務業務それぞれを依頼できるアウトソーシングもあれば、人事や総務、経理のバックオフィスを一括で依頼できるアウトソーシングもあります。
アウトソーシングのメリットは、人手不足の業務をすぐに任せられることや採用や人材育成にかかわる時間や資金などのコストが削減できることです。アウトソーシングサービスを提供している企業と契約するか、フリーランスなどと個人契約して依頼する方法があります。ただし、人事や総務業務は会社の機密情報を取り扱う部門です。情報漏洩などのリスクは防げるか、さらに依頼した業務に望み通りの成果が出せるかなどを確認し、依頼先を決めることが重要です。
人事や総務業務は内製、外注どちらがよい?
人事や総務に関する課題は日々発生するため、アウトソーシングのみで業務を進めていくと、社内の仕組み改正が必要な問題など、根本的な課題解決は難しくなります。最終的には自社で人事や労務の課題に対応できる力を社内に身に着けることが重要です。人事や総務の担当者の採用から教育までの範囲を解決しようとするのは時間もコストもかかります。
まずは外注を上手に活用し、人事や総務に関する業務の適正化を行い、組織を立て直すことが重要です。労力の足りない業務を外注という手段を活用して補いながら、少しずつ人事や総務の担当者の採用や育成を進めることもできます。外注も取り入れることで、将来的に組織で活躍する人事や総務の担当者の育成も実現できるでしょう。
人事や総務業務の課題や悩みに応じた依頼ができる「まるごとバックオフィス」
人事や総務業務の人手不足や、育成や資格取得、採用のコストがかけられない、業務を経営者が行っていて本業が立ち行かない、などの課題解決に役立つサービスが「まるごとバックオフィス」です。人事、総務、会計、経理、採用などのバックオフィス業務を用途に応じて依頼できます。日常的に発生する人事や総務業務をまるごとお任せしたいときはもちろん、「社会保険関係の書類だけ作成してほしい」「人事に関するコンサルティングを受けたい」などのこまかい依頼も可能です。
企業の持つ課題や悩みに応じて、柔軟な依頼ができます。ぜひ人事や総務業務の課題解決に導入をご検討ください。
まとめ
人事と総務の業務に必要なスキルや適性、キャリアアップにおすすめの資格、企業の人事や経理業務に関する悩みの解決方法を解説しました。日常的に発生する人事と総務業務は、組織や人材の適正化のために業務を担う人材が必須です。適性を持つ人材の採用やキャリアアップのための資格取得、即不足している労力を補いたいなら外注も検討するなどして、自社の人事や総務業務の仕組みを整え、企業としての組織力を上げましょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。