総務事務への煩雑さや負担を感じる経営者や担当者も多いです。総務に関する事務や業務を自社でまかなわず外部へ委託する、「アウトソーシング」という手法をとることでより業務の効率化を図る企業が増えてきています。この記事では中小企業が総務をアウトソーシングするべき理由、メリット・デメリット、導入時に考慮するポイント、活用事例やサービスの価格について解説します。
総務業務をアウトソーシングした方が良いケースとその理由
総務業務は、主に会社の売上に直結するコア業務と、定型的でマニュアル化できるノンコア業務に分かれます。これら全ての業務でアウトソーシングが可能ですが、そもそもアウトソーシングした方が良いケースとはどのような時なのでしょうか。理由も踏まえて解説します。
経営者自らバックヤード業務を担当している
総務や経理などのバックヤード業務を経営者自らが行っている場合は、アウトソーシングがおすすめです。特に人員や資金面が十分ではない中小企業に多い傾向にありますが、経営者がバックヤード業務を行ってしまうと、本来経営者が行うべき、会社の利益に関わるコア業務を行うことができません。総務や経理などの業務に追われて、経営に関する業務に集中できなければ、企業間での競争に負けてしまう可能性も高まります。総務関連業務を任せられる従業員がいない場合は、アウトソーシングを検討しましょう。
固定の担当者が業務を担当している
総務業務が属人化するような社内環境の時は社内整備をアウトソーシングするのがおすすめです。総務部門が行う業務の範囲は広くあり、定型化されているものもあれば突発的な対応が求められるものもあります。業務が共有しにくい、柔軟な対応が必要なものはマニュアル化しにくいなどの総務業務が持つ特性から、総務は属人化しやすい業務と言えるでしょう。
業務の属人化は、異動や退職によって担当者が現場から離れたときに、業務が滞る、後任者の育成が効率的ではないといったデメリットがあります。業務のマニュアル整備や業務整理など、属人化を防ぐ施策をアウトソースすることもできます。
慢性的な人材不足により担当の業務量が多い
総務部門は担当する業務の量が多く、範囲が広いにもかかわらず人材不足から最低限の人材体制で運営されている企業も多くあります。特に総務部門は営業や開発などの部門と比べると直接的な利益が出ないため、人員配置の優先度が低くなりがちです。
人員不足から総務業務を最小限の人数で対応することとなり、その結果属人化につながるといった悪循環にもなります。少ない人員で総務業務に対応する場合にも、負担を減らすためにアウトソーシングを検討してみましょう。
総務業務の成果の判別が数値化できず人事評価がしにくい
総務業務は成果を数値化できないため、評価がしにくいという特徴があります。とくに自社で総務業務をすべて担っている場合成果がわかり辛い傾向にあり、総務メンバーのモチベーションが低下したり、業務内容の改善や工夫が行われないこともあるでしょう。アウトソーシングを利用することで、総務業務をより効率化できる方法やノウハウを知るきっかけにもなり、総務業務の効率化につなげられる可能性もあります。
総務業務をアウトソーシングすることで期待できる3つのメリット
総務のアウトソーシングによって期待できるメリット3つについて解説します。
コア業務に集中できる
総務業務には、マニュアル化できるノンコア業務にあたる「日常業務」「管理業務」と、企業の売上に直結するコア業務である「戦略業務」があります。総務のノンコア業務をアウトソーシングすることで、総務の人的リソースをコア業務へ集中できるのがメリットです。コア業務は従業員の柔軟な対応や考えも必要となるため、集中させることでより企業に利益をもたらせるようになるでしょう。
コストを削減できる
総務は繁忙期、閑散期によって業務量が変動する部門です。たとえば月末や年度末は給与処理などの業務が集中するため、多くの人員が必要となります。一方で閑散期は繁忙期ほど業務量がない状態になることもあります。そのような時期には人の配置を最小限にし、人件費は固定費を下げたいですよね。
アウトソーシングは必要なときのみ利用できるため、繁忙期や閑散期に合わせて利用することで、総務の人件費にかかる固定コストをおさえられるでしょう。
また、外注先企業のサービスによっては業務のサポートだけでなく、人材管理までも委託できる場合があります。人事管理をアウトソーシングすることで、総務の人材の退職や異動、採用や引継ぎなどによって発生する教育や育成のコストも削減できます。社会保険や税制度の改訂などの発生時は人事部との連携が必要ですが、関連する業務をアウトソーシングすることで、人事部とのやり取りにかかる工程やコストを削減できます。
総務業務の品質向上が見込める
企業の業務代行を専門に行う企業は、基本的にはその業務に対し専門知識をもったプロが対応することが多いです。そのため、自社の業務品質の底上げや、業務整理による業務改善が期待できるのもメリットです。アウトソーシングをきっかけに業務のマニュアル化が進むことで、総務業務の属人化から脱せる機会にもなるでしょう。
総務をアウトソーシングするデメリット
総務のアウトソーシングはメリットもある一方デメリットもあります。ここでは、総務業務をアウトソーシングすることで起きる3つのデメリットについて解説します。
セキュリティ強化や対策が必要になる
総務業務のほとんどは、従業員の個人情報や取引先との契約方法、会計関連の情報など社内での機密情報を取り扱う機会が多いです。総務業務のアウトソーシングの際には外部への情報漏洩を防止するためのセキュリティ強化や対策は必須となります。
突発的な案件に対応しにくい
アウトソーシングは事前に定めた業務範囲を依頼します。そのため、突発的な案件には対応できない可能性が高いです。
業務の品質が落ちる可能性も
アウトソーシング先によって成果や品質に差があります。アウトソーシングした業務の進行管理や品質は自社側ではコントロールできないため、場合によっては業務の品質が落ちてしまう可能性もあります。アウトソーシングサービスは価格の安さだけでなく、品質も重視して選ぶのがおすすめです。
総務のアウトソーシング活用時に考慮すべきポイント
総務業務をアウトソーシングする方針が決まった際、社内では何を考慮し、準備を進めれば良いのでしょうか。ここでは、活用導入前と、運用開始時にわけて、それぞれのシチュエーションで考慮すべきポイントを解説します。
導入時のポイント
まずは、アウトソーシング活用の導入時に行うべきことを注意ポイントも踏まえて解説します。
業務範囲の洗い出しを行う
導入前に、アウトソーシングが必要な総務業務を洗い出し、依頼する業務の範囲や内容を明確にしておきましょう。業務範囲が明確でないまま外注先の会社と打ち合わせをしてしまうと、話し合ううちに追加したい業務が出てきてしまう可能性があるためです。業務の追加を打ち合わせ時に打診すると、最初の見積もりから追加料金が発生する可能性があります。また、導入後に業務範囲を拡大すると、ミスの多発や納期遅れが発生してしまうこともあるでしょう。
目的と目標を共有する
アウトソーシングを導入する目的や目標を明確にしないまま導入してしまうと、見込んでいた成果や当初のイメージとのミスマッチの原因となったり、費用感のみで話が進んでトラブルが起きたりといった結果となる可能性があります。総務業務を請け負う外注先も、目的や目的が明確でないと、適切な提案や対応ができません。導入時には、アウトソーシング導入の目的や目標、目標達成時期、導入後の未来像を明確にし、外注先の会社と共有するようにしましょう。
依頼する業務は厳選する
アウトソーシングを活用すると当然費用が発生します。一人あたりの時給単価で換算すると、派遣社員や一従業員よりも高額になることも多いため、依頼する業務を厳選し、必要に応じてアウトソーシングを導入するようにしましょう。
準備不足のままスタートしない
アウトソーシング導入に必要な情報を開示しない、資料を準備しないまたはまとまっていない、といった状態のまま導入を進めると、スムーズな業務対応が難しいといった状態や、偽装請負などの法に抵触する事態となるなどのトラブル発生の原因となります。必要な情報や書類などをまとめ、開示したうえで導入するようにしましょう。
総務担当者の活用方法を考えておく
すでに総務担当者がいる場合で総務業務をアウトソーシングするときは、総務担当者の活用方法も一緒に考えておきましょう。たとえば繁忙期なら総務担当者もともに総務業務を行う、閑散期ならノンコア業務をアウトソーシングし、総務担当者はコア業務に集中する、必要に応じて総務担当者を配置転換するなどの選択肢があります。
運用時のポイント
アウトソーシングは導入時だけでなく、運用時にも注意すべきポイントがたくさんあります。
設計漏れがないか定期的に確認する
当初の想定よりもイレギュラーが多発すると業務の遅延やミスの多発の原因となります。結果的に期待していた成果が上がらず、双方の関係悪化につながることもあるでしょう。当初の業務設計に抜けや漏れがあったり、イレギュラーの見過ごしや過小評価したりしていると、業務遅延やミスが起きる可能性も高いです。定期的に設計漏れがないかを確認するようにしましょう。
契約内容以外の業務は依頼しない
アウトソーシングは、業務内容や範囲を明確にしたうえで契約します。万が一契約外の業務を依頼したくなったときには、きちんと見積書を取得し、契約を結び追加をする必要があります。「ついでにお願いしたい」などで契約を結びなおさず口約束で依頼しようとすると、トラブルに発展する可能性があります。契約外の業務を依頼する場合に見積もりを依頼し、都度契約を結ぶようにしましょう。
担当者と情報共有を行う
外注先企業の担当者に業務を任せきりにせず、管理や業務進捗などは適宜確認するなど、担当者と定期的に情報共有を行うようにしましょう。運用課題の洗い出しやPDCAサイクルの回転のためのフィードバックを定期的に行うことで、大きな成果が期待できます。
自社内で外注先企業と社内の総務担当者が業務を行う場合には、特に担当者と情報共有を欠かさずに行うようにしましょう。既存の従業員にとっては、外部の存在であるアウトソーサーが「自分たちの仕事を奪うかもしれない」と認識するかもしれません。場合によっては、従業員からの過剰なクレームや必要な情報を提供しないなどで通常業務に支障が出るなどの弊害が出る可能性があります。特に自社内で業務を共有する場合には、担当者とコミュニケーションを取り、双方の関係を両行にした上で、業務を進めるようにしましょう。
総務アウトソーシングの活用事例
ここからは、まるごとバックオフィスでの事例を5つ紹介します。
事例1 労務 勤怠管理や給与計算をクラウドツール活用してアウトソーシング
事例2 経理業務(仕訳・振り込み)をデジタル化&クラウド対応してアウトソーシング
事例3 採用業務の代行(求人原稿作成、媒体掲載、応募者の一次対応、面接同席など)
事例4 事務業務(チラシなどの作成、顧客データの作成・整理など)
事例5 書類整理・ファイリングや電子データの5S
総務アウトソーシングの料金相場
総務アウトソーシングの料金相場をまとめました。
時間単位での設定:2,000〜4,000円
(例:月30時間利用 69,000~120,000円/月)
業務単位での設定:業務によってさまざま
(例:記帳代行 初期費用 0~20,000円、100仕分け 5,000~10,000円/月
給与計算(社会保険料計算・年末調整含む)初期費用 0~20,000円、1人当たり600円~/月)
アウトソーシング先企業を選ぶ際のポイント
さまざまな総務アウトソーシングサービスや企業が存在します。自社に合うサービスや企業を選ぶために、次に紹介する各ポイントをふまえておきましょう。
品質や実績をチェックする
せっかくアウトソーシングを導入しても、期待通りの成果が出ないとコストが無駄になってしまいます。品質はアウトソーシング企業によって異なるため、依頼したい業務の品質を定期的に確認することが大事です。総務アウトソーシングの実績を公開している企業なら、依頼後の成果がイメージしやすいです。
強みは何かを見極める
総務アウトソーシングは、サービスや企業によって強みが異なります。強みが自社の求めている業務内容とマッチしている企業やサービスを選びましょう。
総務アウトソーシング企業の強みの一例は以下の通りです。
- 大手…知名度の高い企業の総務アウトソーシング。安心感や信頼感がある
- 専門的…企業としても知名度は低いものの専門的な業務に対応できる
- コストが安い…成果よりも費用重視の定型的な業務を依頼したいときなど
- 品質が高い…コストは多少高くなるが品質が高い
会社規模や価格のみで容易に判断するのは危険です。依頼先企業の強みを確認し、自社の課題にマッチしているかどうかも確認しましょう。
自社の課題が分からない、良い総務アウトソーシング企業が見つからない、というときにはバックオフィスサービスを依頼するのも有効です。たとえば「まるごとバックオフィス」ならクラウドを活用した業務支援、時間単位での稼働が可能、業務整理やフロー構築・DX化などコンサルティング領域まで対応できます。総務業務への課題解決に悩んでいるときには、ぜひ検討してみてください。
セキュリティに不備はないか確認する
社内の機密情報を取り扱う機会も多い総務業務は、アウトソーシングにより外部に情報が漏洩するリスクがあります。情報漏洩を防止するための対策を徹底しているアウトソーシング企業を選びましょう。たとえば機密情報保持やセキュリティ対策がされたクラウドツールを使用しているか、などを契約締結前に確認するのがおすすめです。
まとめ
総務アウトソーシングを利用するべき理由やメリット、デメリット、導入時と運用時それぞれのポイントや、総務アウトソーシングの料金や選び方を解説しました。アウトソーシングを利用することで、人員の足りない総務業務を依頼できたり、繁忙期のみ業務サポートを受けたりが可能です。ただし、総務アウトソーシングを継続して利用するとコストが高くなったり、既存の総務担当者の配置に悩んだりといったデメリットもあります。長期的な総務業務の効率化や、経営者が行っている総務業務を誰かにお任せしたいときには、総務アウトソーシングではなくバックオフィスサービスを利用する場合が効果的な可能性があります。ぜひ自社の課題に沿った企業やサービスを選んで、総務業務で抱える課題解決につなげましょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。