企業によって経営や従業員の状況が違えば、経営に対する考え方も異なります。経理に関しては特定の担当者を置かず、経営者自身が行っているところも多いのではないでしょうか。そこで、企業を健全に運営していくにあたってどのような知識を備えておけばいいのか、詳しく解説していきます。経営者自身での経理対応が難しい場合には、代行サービスを活用できることも合わせて紹介しますので参考にしてください。
企業にとって経理は重要!その理由を把握しておこう
企業にとっての経理は、羅針盤にたとえられることがあります。実際に経営を行っていくために経理は欠かせないものだと理解はしていても、具体的に何が大切なのかは、あまり深く考えていない人もいるのではないでしょうか。
そもそも企業の経営は経費をできるだけ少なく抑え、利益を最大にするのが大きな目的のひとつです。経営者は、さまざまな場面で経営判断もしなければなりません。判断を下すために必要な情報を得るためには、経理をしっかり行っておくことが大事です。自社が目指すゴールに到達するためにはなにが必要なのか、どこを改善すればいいのかなど、今置かれている状況を正しく把握することで、将来も見えてきます。過去の状況を詳しく検証し直すことで経営判断に役立つポイントが見いだせることもあるでしょう。また、税務申告を行う際にも、経理は欠かせない業務になります。
経営者が知っておくべき経理の知識とは?
コア業務に対しては秀でたスキルや手腕を持っていても、経理や財務となると苦手意識を持っている経営者が多いかもしれません。しかし、企業のトップとしては、経営や財務の知識も必須です。特に経営者として経理に関するどのような知識を持っておくべきかを、以下の段落で解説していきます。
決算書(財務諸表)の知識は最低限持っておくべき
そもそも決算書(財務諸表)は会計期間の事業報告を利害関係者などに示すために必要なものであり、企業には作成が義務づけられています。経営者自身も中身を読み解き、関係者から質問を受けたときは滞りなく答えられるように準備しておくべきでしょう。決算書のなかでも特に財務三表と呼ばれる「損益計算書」と「貸借対照表」、「キャッシュ・フロー計算書」の知識は企業にとって重要です。それぞれ具体的にどのようなものなのか把握しておいてください。
損益計算書
損益計算書は、おおまかにいえば一定の会計期間で企業がどれだけ儲けたのかを示すものです。英語表記はProfit and loss statementで、略してP/Lと呼ばれることもあります。具体的には売上高から投じた費用を引くことで、収益がどのくらいあったのかが分かる仕組みになっています。もし、かけた費用よりも収益が下回っていれば赤字です。損益計算書ではさまざまな費用を差し引いていき、5つの利益を把握できます。
「売上総利益」は売上高から、売上に対する仕入である売上原価を差し引いた粗利益です。「営業利益」は売上総利益から、さらに人件費や水道光熱費などの営業に必要な費用を差し引いた利益、さらに営業以外で発生した収益や費用を加味したものが「経営利益」になります。固定資産や有価証券など一時的に発生した特別利益や特別損益を差し引いたものが「税引前当期純利益」となり、そこから法人税等を差し引いて最終的に算出されるのが「当期純利益」です。以上のように、収益や費用の区分を分類して計算することで、どの部分の収益や費用が大きいのかが分かります。
貸借対照表
貸借対照表は資産と負債、純資産の3つのカテゴリーに分かれています。資産と負債+純資産の合計が等しくなるため、英語ではBalance Sheet、略してB/Sとも呼ばれます。貸借対照表を見ることで、その企業の資金調達や運用の状況が分かる仕組みです。資産の部分では、固定資産や流動資産など、企業がどれだけ資産を所有しているのかが分かります。
負債の部分は金融機関からの借り入れや買掛金などの流動負債として調達した資産で、純資産の部分は株主からの出資や当期純利益の加算などの自己資本です。負債も純資産も資産の調達を表すことに違いはないものの、他人から借りたものなのか、自己資本として所有しているものなのかが違います。いずれは返済が必要になる負債よりも、自己資本を所有している割合が高いほうが、健全な経営を行っていると判断できます。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フロー計算書は企業におけるお金の流れを表すもので、英語ではCash flow statement、略してC/Sと呼ばれています。上場企業には提出が義務づけられていますが、中小企業では特に提出の義務はありません。営業活動におけるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フローの3種類があり、それぞれでお金の増減を把握することが可能です。
最低限の簿記の知識は必要
企業を経営するにあたって、決算書について理解しておくことが大事なことを述べてきました。そもそも損益計算書や貸借対照表などの決算書を読み解き、作成するためには基本的な簿記の知識が必要です。決算書を作成する前段階として、日々行われる記帳作業なども簿記のルールにしたがって行われています。決算処理や確定申告などにも、簿記の知識は必要です。経営者自身が必ず簿記の資格を取る必要はありませんが、経営に必要な簿記の知識は得ておいたほうがいいでしょう。
税金の知識も持っておく
企業活動を行うさまざまな場面で、税金にかかわる手続きも出てきます。例えば、法人は税務署に毎年、法人税を申告して納めなければなりません。しかし、法人の種類によって課税対象の範囲や税率などが異なるため、正しく把握しておく必要があります。また、課税売上高が1000万円を超えると、消費税の納税義務もあります。そのほか社員を抱えていると、社会保険料や年末調整などの手続きも行わなければなりません。
資金繰りや事業コントロールを適切に行うための知識
日常的な記帳作業や決算書の作成などは、基礎的な簿記の知識があれば、ある程度はできます。しかし、経営者は資金の調達や運用にも力を入れ、経営の舵取りを担っていく立場です。お金が回っているのかどうか、事業が適切にコントロールできているのかなど、先読みしながら戦略を立てる必要があります。意思決定を下さなければならないときは、経営状況を正しく読み解くすべを知っていることが大事です。健全に企業を運営していくためには、資金繰りの知識や事業コントロールに必要な管理会計などの知識も身につけておいたほうがいいでしょう。
経営者に経理の知識がなくても対応できる経理会計体制の作り方
経営者に経理の知識がなかったとしても、企業として健全に経理や会計が行える体制を整えることは可能です。以下で具体的な体制の作り方を3つ紹介します。
会計ソフトやクラウド会計を導入する
インターネットやIT技術が普及したことにより、経理ソフトや会計ソフトが数多く提供されるようになりました。システムにインストールして使うタイプやクラウド型など選択肢も複数あり、企業のニーズに応じて活用できます。従来の経理や会計では、紙の帳簿に手書きで記帳作業を行ったり、決算書を作成したりするのが当たり前でした。担当者にはある程度の簿記や会計の知識が求められることもあったでしょう。しかし、会計ソフトやクラウド会計を導入すれば、最低限の経理知識があれば対応できます。経理や会計にかかる作業を効率化できるメリットもあります。
経理担当者を雇用して任せる
それほど規模が大きくない企業では、経営者が従業員をまとめつつ、自身もコア業務に従事しているところも多いでしょう。そのうえ経理や経営にかかわる業務まで負担していることも少なくありません。コア業務では誰にも負けない知識や技術を持っていたとしても、経理や会計の分野は苦手という経営者もいるはずです。それでも、経営するうえで経理や会計は欠かせない業務であるため、頑張ってやっているという経営者もいるのではないでしょうか。経営者自身が経理まで手が回らないという場合に、経理担当者を雇用するのも選択肢のひとつです。
経理や会計の業務を外部に委託する
企業内に経理や会計の担当者を設けるのではなく、思い切って外部に委託してみるのもおすすめです。税理士や公認会計士などの専門家、経理業務経験者などを多数抱える経理代行会社などが、経理部門のアウトソーシングサービスを展開しています。アウトソーシングでは経理や会計の知識を持った人に業務を任せられるため、経営者の負担を軽減させることが可能です。
経営者が経理以外で知っておくべき知識とは?
経営者が知っておかなければならないのは、なにも経理だけではありません。従業員を雇用し、事業を滞りなく遂行していくためには人事労務の知識や法務の知識、現代社会ならではの知識も必要になります。
従業員を雇用するうえで必要な人事労務の知識
企業を経営していれば、健康保険や厚生年金保険などの社会保険、雇用保険や労災保険などの労働保険への加入も必要になってきます。労働保険は従業員がいなければ加入する必要はありませんが、経営者1人だけで事業を行っている場合でも社会保険には加入義務があります。労働者がいれば、保険対象者の状況に変化があったときや年1回の算定基礎届など、届出の手続きも必要です。人事の情報管理はもちろん、人材採用時や従業員が入退社するときの手続きなど、人事労務で把握しておきたい知識はいろいろあります。
企業活動のなかで必要になる法務の知識
企業がどのような事業を行っているのかにもよりますが、事業に関連する知識も当然必要です。従業員を多く抱えている企業なら、現場に詳しい人材がいるかもしれません。しかし、経営者としては、自社の事業に関係のある取引や契約に関する内容は把握しておきたいところです。法律などは頻繁に改正されることもあるため、最新の情報も漏らさず確認しておくことが大事です。
現代のビジネスで必須の情報リテラシー・ITリテラシー
情報化が進む現代では、昔にはなかった知識が必要とされています。世の中に溢れる多くの情報のなかから、必要な情報を選び、本当に正しいのかどうかを見極め、正しく分析する情報リテラシーの能力が求められるようになりました。また、間違った情報を取引先や顧客に伝えてしまうと、企業の信用問題にも発展しかねません。そのため、情報を受け取るだけではなく、正しく発信できることも大切です。
現代はパソコンだけにとどまらず、次々に新しいITツールも登場します。使いこなせなければ業務に支障が出るシチュエーションが出てくるかもしれません。情報を正しく扱える能力と同時に、ITツールを使いこなせる能力を培う努力をしておく必要もあるでしょう。
経営者以外が経理業務を行う具体的な方法
経営者は企業のコア業務はもちろん、取引先との折衝や顧客に対するフォローなど、さまざまな業務で時間を取られがちです。本業が忙しいあまり、なかなか経理に費やす時間が確保できないことも多いのではないでしょうか。ここからは、経営者以外に経理業務を担当してもらう具体的な方法を2つ紹介します。
企業内部で経理担当者を雇用する
経理業務を専門に担当してもらう従業員を雇用することで、経営者の負担は確実に軽減させられます。その分だけ経営者はコア業務に集中することができるでしょう。経理や会計に関する専門知識を持つ優秀な人材が確保できれば、わざわざ人材育成に時間をかける必要もありません。指示や説明も最小限で済むメリットもあります。新たに人材を入れることになるため、採用コストがかかるのはデメリットです。経理担当者を置くことを検討する場合は、採用前に雇用するとどのくらいコストがかかるのかを計算し、メリットが上回るかどうかを確認してください。
経理をアウトソーシング(外部委託)にする
先述したように、従来なら企業内で行っていた経理や会計の部分をアウトソーシングすることが可能になっています。具体的に外部委託できる内容は日々発生する取引の記帳業務や請求書発行、未入金の管理、支払い請求書をまとめて振込をするなどです。毎月の締めや決算書の作成などのほか、年末調整や給与計算まで委託できるところもあります。
内部に経理担当者を置きたいと思っても、なかなか望むような人材が見つからないこともあるでしょう。人材不足などが理由で担当者を雇用するのが難しいケースにも、アウトソーシングは向いています。また、決まった担当者しか業務を行っていない場合、その担当者が突然退職してしまうと、誰も業務内容が分からないという事態を招きかねません。属人化を防ぐという意味でも、アウトソーシングは有効な方法です。
経理業務をアウトソーシングすることで得られるメリット
経理業務をアウトソーシングすれば、以下のようなメリットがあります。
経営者や従業員の負担が減りコア業務に集中できる
経理はノンコア業務のひとつとして認識されていることがほとんどです。企業によっては経営者ではなく、営業職や一般事務の担当者が経理業務を兼ねているところもあります。専門の担当者を置いていない中小企業などでは、他の従業員や経営者の負担となっていることもあるのではないでしょうか。本来ならもっとコア業務に時間をかけたいと考えている人も多いはずです。経理業務をアウトソーシングすることで、従業員や経営者がコア業務に集中できます。
専門家に依頼することでミスや不正を防げる
経理のアウトソーシングを提供している業者は、経理に関する専門知識を持つ人材が集まるいわばプロ集団です。税理士や公認会計士の事務所などが、経理のアウトソーシングに対応しているケースもあります。経理に関するプロが作業することで、社内では見落としがちなミスを防ぐことが可能です。また、経理担当者が1人しかおらず、確認する体制が整っていない企業では、着服などの不正が全く起こらないとも言いきれません。不正の抑止についても、アウトソーシングは有効な方法のひとつです。
内部コストの削減が可能
アウトソーシングを利用すると、ある程度の委託料は発生します。しかし、内部で人材を確保する場合にも、実は採用・教育するためのコストがかかっています。もし、担当者が退職すれば、新しい人材を得るために再びコストがかかるうえ、教育する時間や手間も必要です。アウトソーシングすれば委託料はかかっても、内部で人材を確保する場合に発生するようなコストが度々発生することはありません。
企業のトップとして経営者も経理の知識は持っておこう!状況によってはアウトソーシングも視野に
企業のトップとして、経営者自身もある程度の経理に関する知識を持っていることが求められます。ただ、なにかと忙しい経営者にとって、経理業務をすべて自分でこなすことが難しいこともあるでしょう。従来なら企業内部で行っていた経理業務を、高い専門性を有する業者がアウトソーシングで対応するケースも増えてきました。自社の状況を検討し、必要ならばアウトソーシングも視野に入れてみてください。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。