専門的な知識やスキルとともに正確な処理が求められる会計業務は、煩雑かつ複雑になりやすい業務のひとつです。会計業務の負担を軽減し業務の効率化を進めるため、会計業務のIT化を検討する中小企業や小規模クリニックの担当者・経営者も多いでしょう。会計業務のIT化を成功させるためにも、会計業務のIT化のメリット・デメリット、導入する方法や導入前のポイントについて解説します。
会計業務のIT化とは?
IT化とは、業務効率化やコスト削減を目的に従来のアナログ作業をデジタルに移行することです。IT化によって仕事の無駄が排除でき、業務の時短と品質向上の両方が実現できるため、幅広い業務や業種でIT化が推進されています。
会計業務においてもIT化を進めることで、効率化や業務負担の軽減、コスト削減や品質向上が期待できます。
中小企業で会計のIT化が進まない4つの理由
会計部門でもIT化が推進されていますが、IT化の導入を進めづらい企業も中にはあります。なぜ中小企業の会計のIT化が進まないのか、中小企業庁の調査データを元に解説します。
費用面の負担が心配
中小企業がIT化を導入できないもっとも多くの理由が「コストが負担できない(30.6%)」です。(参考:中小企業庁「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 IT の導入・利用を進めようとする際の課題」)ソフトを導入し効率化を図ろうとした場合、初期費用や運用費がかかります。またシステムの改善や修理が必要な場合は保守費用も発生します。
導入費用や維持保守費用はシステムや企業の規模によっても異なりますが、場合によっては高額な支払いをしなければいけないことが、中小企業のIT化の妨げとなっています。
導入効果が分からない
次に理由として多いのが「導入の効果が分からない、評価できない(29.6%)」です。(参考:中小企業庁「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 IT の導入・利用を進めようとする際の課題」)高額な費用をかけてもコストを回収できるか、課題は解決できるかなど不安を感じることから、IT化に踏み切れない中小企業も多い傾向にあります。
どのようなITシステムを入れたらよいかわからない
「業務内容に合ったIT技術や製品がない(18.0%)」(参考:中小企業庁「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 IT の導入・利用を進めようとする際の課題」)自社の課題や効率化したい業務にふさわしいITシステムが何かわからない、という場合もあります。ITに関する日頃の相談相手が社外にいるかどうかも、中小企業のIT化導入のポイントです。
ITを使いこないせる社員がいない
「従業員がITを使いこなせない(21.5%)」「IT導入の旗振り役が務まるような人材がいない(17.0%)」(参考:中小企業庁「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命 IT の導入・利用を進めようとする際の課題」)など、導入したITシステムやツールを使いこなせる社員がいない、または不足していることもIT化の障害となっています。
会計業務をIT化するメリット
作業量も多く複雑になりがちな会計業務は、IT化をすることで多くのメリットが得られます。5つのおもなメリットについて解説します。
作業を効率化できる
IT化によって、たとえば以下のように作業を効率化できます。
- データでの情報管理…手書きやファイリング、訂正の時間短縮、保管スペース不要
- システムの自動化…手を動かす量の削減による業務時間の短縮、定型業務が不要
多くの業務量や負担が発生する会計業務もITを利用することで効率化できます。
コスト削減ができる
IT化によって作業が効率化すると、会計業務にかける人的コストの削減につながります。さらに紙ではなくデータで保管することにより紙代、印刷代、インク代、印刷機器のメンテナンス費、郵送費、保管場所を確保する費用、紙の廃棄の費用なども削減できます。
空いた時間を別の業務に充てられる
IT化によって業務の効率化やデータ保管の負担軽減につながれば、担当者は余裕をもって業務に取り組めるようになります。人にしかできない作業や業務により注力できるのも、IT化によるメリットです。また人手不足などで会計業務を経営者がひとりで行っている場合も、IT化によって会計業務を効率化し、経営者は経営に関する本来の業務に専念できます。
正確な情報やデータを蓄積できる
入力ミスがあるとエラー表示が出るなど、システムやツールには人的ミスを防ぐための機能も搭載されています。さらに人が対応する業務自体も少なくなるため、人的ミスが少なくなり、正確な情報やデータを蓄積できるようになります。
IT化によって経理に関する情報管理がしやすくなることも、正確な情報やデータの蓄積につながります。紙の書類は経理の情報が分散しやすくなり、必要な書類を見つけにくい問題がありますが、システムやツールを導入することで、情報やデータを一か所にまとめられます。さらに検索機能を使って必要な情報をいつでもすぐに取り出せるのもメリットです。
素早く会社の現状把握を行える
IT化によって、蓄積した情報やデータをすぐに参照できます。各部門でデータが共有できるだけでなく、蓄積した情報やデータを分析しやすくなるため、企業の資金やキャッシュフローなどの経理状況や会社の経営状況も把握しやすくなります。
会計業務をIT化するデメリット
会計業務IT化は、多くのメリットが得られる一方でデメリットもあります。覚えておきたい会計業務をIT化するデメリットを解説します。
導入に時間とコストがかかる
IT化のためのシステムやツールを導入する際に、ハードやソフトの購入費や導入費、さらに外部委託費などがかかります。IT化によって人件費や設備費などのコストが削減できるメリットもありますが、初期投資は必要であることを覚えておきましょう。なお、委託費は複数の業者を利用するのではなく、ひとつの業者にまとめて依頼することで削減できる可能性があります。
IT化すべき業務やツールの選定、IT化にあたってのマニュアルや業務フローの整備など、導入には時間や手間もかかることを覚えてきましょう。
従業員のITリテラシー教育が必要になる
ITリテラシーとはIT技術を使いこなせる知見やスキルを指します。従業員のITリテラシーが低いと、IT化によって新しいシステムやツールを導入しても使いこなせない可能性あります。導入後継続してシステムやツールを使っていくためには、従業員へのITリテラシー教育を行う検討も必要です。学習機会を設けるなどシステムやツールを使える状態にすれば、導入後もスムーズに運用できるでしょう。
会計業務をIT化できるツールやソフト
会計業務をIT化する方法のひとつに、ツールやソフトの導入があります。ツールやソフトにはいろいろな種類があるため、業務に合わせたものを選びましょう。代表的な会計業務をIT化できるツールやソフトの特徴や活用方法を解説します。
クラウド会計ソフト
クラウド会計ソフトとは、サーバーでデータを管理しクラウドで会計業務を行えるソフトを指します。ダウンロードやセットアップ不要ですぐに導入でき、専門的な知識やスキルも不要で運営できます。デバイスや場所を選ばず利用できる、万全のセキュリティ対策でデータ管理ができるなどのメリットがあります。
クラウド会計ソフトを会計業務のIT化に活用するには、以下の方法があります。
- 請求書発行を効率化する
- 各種収益管理を効率化する
- 経理や会計担当者でデータや作業の共有
- 銀行口座とクレジットカードなどと連携して自動入力
- 法人決済業務を効率化する
経費精算システム
経費精算システムとは、経費精算や出張費、交通費、交際費などの清算業務を効率化するためのシステムです。システムによって機能が異なるため、効率化したい業務や経費精算で自社の課題に合うシステムを選びましょう。
経費精算システムを導入すると、以下のように活用できます。
- 電子帳簿等保存に対応できる
- ICカードの読み取りや乗換案内アプリとの連携、スマートフォンによる領収書撮影により経費申請がスピーディかつ不正防止できる
- 経費帳簿のペーパーレス化
請求書発行システム
請求書発行システムは、大きく分けて「電子請求書システム」と「クラウド請求書発行システム」があります。電子請求書システムは、請求書をデジタルで管理することでペーパーレス化や電子取引を実現できるシステムです。クラウド請求書発行システムは、クラウド会計システムと同じく、サーバー上で請求書の作成や発行のできるシステムを指します。
請求書発行システムは、以下のような会計のIT化に活用できます。
- 基幹システムのデータを適切に管理できる
- 請求書、納品書、見積書などのペーパーレス化
- システム上で作成した書類の郵送(別途郵送料が必要)
- 申請と承認、支払いのフローの一元化
- 経理や会計システムとの連携による自動入力
- 電子取引やペーパーレスへの対応
債権管理システム
債権管理システムとは、債権管理業務のフロー化や自動化が実現するシステムです。既存の会計システムに債権管理業務に特化した機能がない場合、導入することで債権管理業務の効率化につながります。
債権管理システムは、以下のような会計のIT化に活用できます。
- 債権管理のフロー化や自動化
- 代金回収、支払状況の把握
- 手形の管理
- 販売・購買管理
- 経費や勤怠、作業工数管理機能も含む統合基幹業務システムの構築
会計業務をIT化できるサービス
会計業務のIT化に活用できるさまざまなサービスもあります。会計業務のIT化に有効な3つのサービスを紹介します。
会計代行サービス
会計代行サービスとは、記帳代行、請求書事務、給与計算、振込業務などの会計・経理業務の一部または全部を外部の企業に委託できるサービスです。経理作業を効率化するためのコンサルティングや、会計ツール、システムの選定、導入サポートも依頼できます。
対応している業務内容や業務量、委託料はサービスによって異なります。委託したい業務内容やコストなどを考えて、委託先を選びましょう。
オンラインアシスタントサービス
オンラインアシスタントサービスとは、特定の業務をインターネットを介して委託できる外部のアウトソーシングスタッフ、またはアウトソーシングサービスを提供しているプラットフォームを指します。単発で人員が必要なときや、専門性の高い能力やスキルが必要な業務への対応を社内の人員では補えない場合に、利用するとメリットがあります。
オンラインアシスタントへは、仕訳入力、経費精算、決算処理、会計ソフト導入サポートなどの会計業務のアウトソーシングが可能です。
税理士や会計士
税理士や会計士のなかには、会計業務のIT化のためのコンサルティングやツールの選定、導入サポートを提供している場合もあります。また、税理士は税務代理、税務書類の作成や税務相談などの税務に関する独占業務も依頼できます。
税理士や会計士は依頼する業務内容が多い場合や、会社規模が大きくなると料金高くなる傾向にあります。
会計のIT化を進める前に確認すべきポイント
会計のIT化を成功させるために、導入前にふまえておくべきポイントを4つ紹介します。
課題や目的を洗い出す
負担と感じている、または人材や時間を多くかけている業務を洗い出すことで、必要となるITシステムや改善策が把握できます。たとえば請求業務に時間がかかるという問題の場合、紙での郵送に負担がかかるなどの細かな根本課題を書き出してみましょう。この場合の解決策は、紙ではない手法の導入であり、請求書発行システムを導入することで問題解決できることが分かります。一方で根本的な課題や目的が曖昧なままシステムを導入しIT化を進めようとすると、異なる解決方法を取り入れてしまうなどミスマッチが起きる可能性もあります。
現在の会計業務のフローをひとつずつ見直すことで、会計業務の課題や負担となっている業務の洗い出しができます。
自社に合うツール・サービスを導入する
会計業務のIT化に活用できるツールやサービスによって、機能や使い勝手は異なります。会計業務の課題解決に活用できるものはもちろん、自社の会社規模や社員数などに合う最適なツールを選ぶのも重要です。業者によっては自社に合うツールやサービスの選定や導入へのサポートを提供している場合もあります。はじめてIT化を検討するなら、サポートやフォローが受けられる業者を選ぶのもおすすめです。
ITスキルの向上に努める
経理担当者のITスキルが低い状態では、従来のやり方を貫きIT化をしても浸透しない可能性があります。また、ITスキルはツールやシステムの操作だけでなく、Excelの関数やマクロなどのスキルを身に着けることで、経営判断の分析にも活用できます。経理担当者のITスキルが高ければ企業の経営にも良い影響がありますので、積極的に担当者のITスキルの向上に努めましょう。
IT化への不安を取り除く
新たな改革をしようとすると、抵抗する人は必ずいます。「パソコンやデジタルが分からない」「新しいやり方を覚えなければいけない」などの理由から不安に変わることも多いです。
対策としてIT化を進めると決まった段階で、社内へ早めに告知するようにしましょう。導入後の具体的なイメージが分かるような説明や、具体的な数値を出すと、抵抗する従業員の不安を取り除きやすくなります。
まるごとバックオフィスで会計業務をIT化しよう
会計業務のIT化を進めようとしても「どのツールやシステムを選んでいいか分からない」「ITリテラシーの教育をする余裕がない」「導入しても運用できる人材がいない」などの悩みから、実際の導入は難しいと感じる担当者や経営者も多いです。会計業務のIT化をあきらめる前に、導入を検討してほしいのが「まるごとバックオフィス」です。
名前の通り、総務や人事、労務、会計などのバックオフィス業務をまるごとおまかせできるのはもちろん、会計IT化のためのツールの選定や導入、運用代行まで一括で委託することも可能です。用途に合わせた業務の課題解決に、ぜひまるごとバックオフィスをお役立てください。
まとめ
会計IT化の概要や中小企業が導入できない理由、会計IT化のメリットやデメリット、導入前の注意点などをご紹介しました。会計業務のIT化が実現すれば、業務の効率化やコスト削減、ただしデータの蓄積や不正防止などさまざまなメリットが得られます。導入までの道のりは長く難しいと感じやすいですが、ツールやサービスを導入すれば中小企業での会計IT化も実現可能です。ぜひ自社の課題解決に合わせた方法を選び、会計のIT化を進めましょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。