経理業務にも閑散期と繁忙期が存在し、特に締日や決算期など、特定の時期に業務量が増えることがあります。忙しい時期は通常の業務に加えて業務が増え、担当者の業務負担の増加や、人手不足のリスクが高まります。経理の忙しい時期や人手不足の防止対策を行い、滞りのない経理業務の遂行につなげましょう。この記事では、経理の忙しい時期がいつなのか、経理の人手不足が原因で起きる課題、経理の忙しい時期への対策方法を解説します。
経理がもっとも忙しい時期とは?
経理は繁忙期と閑散期の時期により業務の内容が明確に分かれます。経理の繁忙期は月初と決算期のほか、年末調整やイレギュラー業務が発生したときにも該当します。それぞれの時期がなぜ忙しくなるのか、その理由をまとめました。
月初
毎月発生する「月次業務」に対応するため、毎月月末から月初にかけては経理業務の繁忙期にあたります。また、月末よりも月初の方が忙しい傾向にあります。月末の締め処理を行ったあとに、以下のような重要な業務を月初の第1〜10営業日で行わなければいけないためです。
- 入金確認
- 売上・支出の集
- 帳簿作成
さらに給与計算の業務を経理が担当している場合には、給与の締め日から支払い日まで給与計算を行うため忙しくなります。
決算
1ヶ月間や1年間など一定期間の会社の収入・支出を集計し、利益や損失を計算する経理業務が「決算」です。決算業務が発生する時期も経理の繁忙期にあたります。決算期は企業により異なりますが、3月31日もしくは12月31日を決算日とする企業が多いです。
決算は一定期間の末日で締め切った後、集計作業をともなう以下の業務を行わなければいけません。
- 棚卸し
- 決算整理
- 帳簿作成
- 決算報告
決算での集計処理に加えて、月末から月初にかけての月次業務も当然発生します。そのため、決算日から株主総会の時期(3月決済なら6月ごろ)まで特に経理は忙しくなります。
12月から1月
年末調整業務と賞与の支払い業務がある12月から1月にかけても、経理の繁忙期にあたります。年末調整では、以下のように多くの業務が発生します。
- 各種控除書類の手配
- 生命保険料控除証明書などの各種控除書類の回収
- 1年間の給与合計額と控除書類を元に所得税を再計算および過不足の清算
- 源泉徴収票、給与支払報告書、法定調書合計表の作成・提出
その他の期間
税務署からの税務調査が入るなど、イレギュラーな経理業務が発生したときにも経理は忙しくなります。たとえば税務調査では、売り上げや仕入れ、経費に関する書類や税の納付書や契約書などの書類の準備、帳簿や伝票の書き込みチェック、対応する従業員の選定や備品の整理と、多くの準備が必要です。
忙しい時期に対応できない?経理が人手不足になった場合の懸念点
経理は営業や開発、企画などの部門と比較すると企業の売上や経営に直結しない部門のため、少ない人員で業務をこなすことがあります。ところが、経理が人手不足になると、さまざまなリスクが発生するため注意が必要です。実際に起きる可能性のあるリスクや問題について解説します。
ミスや不正のリスクが高まる
「東京商工リサーチ:2021年全上場企業 『不適切な会計・経理の開示企業』」の調査結果によると、開示企業は2019年に過去最多の70社となってからは減少傾向に転じていますが、7年連続で50社以上の高水準を維持しています。
2021年には新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令されたのを受けて、経理関連の人員を含めて多くの従業員を在宅勤務とした企業も増加しました。その結果経理業務フローの確認を行う経理の人手が不足し、不適切な経理処理も増えました。特に経理や会計処理ミスなどの「誤り」の件数は過去最多、さらに架空売上の計上や水増し発注などの「粉飾」の件数が次に多くなっています。このことから、経理の人手不足は経理業務のミスや不正の原因となることが分かります。
経理上でのミスや不正など、不適切な経理処理を頻発すると会社の資金状況が把握しにくくなります。最悪なケースでは、悪質なミスや不正を起こした企業として公表され、企業としての信頼を失うなど、会社の経営にも悪影響となる可能性もあります。
代わりとなる社員がいない
大手企業と比べると中小企業は人員にも資金にも潤滑でない場合が多いです。そのため、中小企業の経理担当者は1人だけ、または経営者本人が経理も行っているということも多くあります。特定の人材のみが経理業務を担当することで、経理業務の属人化が発生します。属人化が発生すると経理担当者が休業や退職となったときに、経理業務を代わりに担当できる人材が企業内には誰も存在しません。特に繁忙期に経理担当者がいなくなることで、企業の経理業務が立ち行かなくなり、不適切な経理処理が発生する悪循環ともなってしまうでしょう。
求めるスキル・経験を持つ人材の確保が難しい
経理は給与や資産など、企業のお金を管理する業務を担当します。そのため、パソコンスキル、簿記や法令、税制、労働基準法などさまざまな専門的な知識が必要です。さらに、法令や税制は頻繁に改定されるため、定期的な知識のアップデートも求められます。
業務内容を正確に行う丁寧さや従業員とやり取りを行うコミュニケーション能力、業務を締め切りまでに行う調整力やマネジメント力などのスキルも必要です。多くの知識やスキルが求められる経理業務を行える人材を育成できる企業も少ないため、経理の人材は人手不足が続いている傾向にあります。さらに、経理の人手が足りなくなったときに経理業務を代理で行える人材そのものが少ないため、採用にも時間がかかるでしょう。
本業に専念できなくなる
経理の人手不足が発生すると、ほかの部門の人材や経営陣が経理業務を手伝うことにもなりかねません。主要な業務時間を経理業務に割かなければいけないため、企業の売上が下がる、経営判断ができなくなるなどの悪影響が出てきます。
労働環境が悪化する
少ない人員で多くの業務をこなすことで、休憩や休暇が取れない、残業が当たり前などの労働環境の悪化につながります。労働環境が悪化することで従業員は疲労がたまり、注意力の低下によるミスの誘発、気分の落ち込みなどを引き起こすでしょう。その結果、経理業務のできる貴重な人材が退職してしまう可能性もあり、経理の人手不足が解消できない悪循環となってしまう可能性も高いです。
経理の忙しい時期が来る前にやっておくべきこと
経理の人手不足による問題やリスクを防ぐためには、経理業務が忙しくなる前に対策をしておくことが重要です。忙しい時期や人手不足に対応するために、やっておくべきことを順に解説していきます。
業務フローの見直しを行う
経理業務を煩雑にしている原因に、アナログ作業があります。以下のようにアナログ作業による業務フローを見直すことで、経理業務の効率化につながります。
- 紙の書類管理→ペーパーレスにすることで回収や承認、入力などのフローを簡略化
- オフライン→オンライン化することで作業の共有やリモートワークが可能
- 小口現金管理→キャッシュレス化することで仕訳入力の自動化、金融機関へ足を運ぶ必要がない、不正防止
システムを導入・活用する
経理業務を効率化できるツールに、クラウド会計ソフトや経費精算システムなどがあります。これらのソフトやシステムを導入すれば、入力や仕訳などの経理業務を自動化でき、人員を増やさなくても経理業務の負担を少なくできます。ただし、新しくソフトやシステムを導入するにあたり、今までの経理業務のやり方を変えなければいけません。
経理業務効率化に有効なクラウド会計ソフト、経理清算システム、請求書発行システムの特徴や導入するメリットを順に解説していきます。
クラウド会計ソフト
クラウド会計ソフトとは、インターネット上のサーバーにデータを保存するクラウドサービスを利用した会計ソフトです。従来の会計ソフトと比較すると、以下のメリットが得られます。
- インストールや自社サーバー不要で利用できる
- バージョンアップ不要
- IDとパスワードがあればどのデバイスからもアクセスできる
- 銀行口座やクレジットカードなどの取引データと連携できる
- 高いセキュリティレベルでデータの管理ができる
- 記帳や請求書発行、給料明細発行などほかの経理業務と連携できる機能もある
- 直観的に入力できる
- 資金繰りが可視化できる
- 社内はもちろん、税理士など社外ともデータを共有できる
経費精算システム
経費精算システムとは、経費精算に伴う以下の作業全般を自動化できるシステムです。経費はもちろん、交際費、交通費、出張費とさまざまな清算に対応しています。
- 必要な申請書の作成
- 承認者の承認
- 経費の仕訳
- 会計ソフトへの入力
経費精算システムを導入することで、以下のメリットが得られます。
- 申請書作成が効率化する(紙から入力へ)
- 承認依頼がWebで完結するためスムーズに
- 定期圏内の交通費自動控除やICカードの読み取りができる
- 承認者は承認・否認作業がワンタッチでできる
- 出先からでも承認ができる
- 通知が来るため承認抜けや遅れが出ない
- 自動計算されるため計算時間や確認作業を削減できる
- 振り込み作業のためのFBデータが自動作成される
請求書発行システム
請求書発行システムとは、請求書、見積書、納品書の作成および発送がクラウド上でできるツールです。請求書発行システムを導入することで、以下のメリットが得られます。
- 請求書、見積書、納品書をクラウド上で作成から発送までできる
- 郵送費を別途追加すれば、紙の書類の郵送の代行をしてくれるシステムもある
- チラシやお知らせなどの書類の作成や発送もできるシステムもある
- 電子帳簿保存法やインボイス制度に対応した書類が作成できる
- ⾃社システムや販売管理システムのデータを連携できる
経理の人材育成を強化する
経理の担当者の属人化により人手不足に陥っている場合には、ほかに経理を担当できる人材を育成する方法が有効です。経理の業務を分散し、人手不足による悪循環から抜けられる、経理担当者が不在になっても経理業務が滞らないといったメリットが得られます。
ただし、経理業務には専門的な知識やスキルが必要です。また、育成を担当する従業員が育成対象となる従業員以上に経理業務に関する知識やスキルを持っていることも条件となります。結局育成を担当できる人材のリソースがないなどで、経理の人材育成が難しい場合も多いです。
経理業務をアウトソーシングする
経理業務を請け負うアウトソーシングサービスを利用することで、社内の経理業務を社外へ分散またはすべて委託できます。おもにアウトソーシングできる経理業務は、以下の通りです。
- 売上・売掛金
- 仕入・購買・買掛金
- 経費精算
- 決算業務
- 経営資料・決算報告書などの作成
また、経理だけでなく総務や人事などのほかの業務をアウトソーシングできるサービスもあります。
経理の忙しい時期こそまるごとバックオフィスで経営の安定化を
「経理の忙しい時期になると限られた人数で業務をこなせなくなる」「慢性的な経理の人手不足に悩まされている」「経営者が経理業務も行っているため、本来の業務ができない」など、経理業務に関するお悩み解決におすすめのサービスが「まるごとバックオフィス」です。
まるごとバックオフィスは、経理をはじめ人事労務、採用、秘書など面倒なバックオフィス業務をまるごとお引き受けできるサービスです。人件費や固定費は発生しないため、「繁忙期にだけ依頼したい」「イレギュラーな経理業務に対応してほしい」など、柔軟な依頼もできます。もちろん、経理業務をすべてご依頼いただくことも可能です。経理業務の効率化や、経営の安定化にぜひまるごとバックオフィスをご活用ください。
まとめ
経理の忙しい時期と理由、経理が忙しい時期や人手不足へ有効な対策方法を紹介しました。経理業務が滞ってしまうと、会計ミスや不正の頻発による企業の信頼損失や、経営状況が不安定になるなど、多くのリスクが発生します。経理の人材育成が困難な場合はシステムやツール、アウトソーシングサービスなどを活用することで、経理業務の効率化や属人化を防げます。企業や事業所の「お金」の要となる経理業務を正常化し、安定的な経営につなげましょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。