経理は企業活動で欠かせない業務のひとつですが、担当者が経理だけに従事しているのではなく、他の業務も兼ねて行われるケースが少なくありません。しかし、経理業務は一般事務や会計・財務などとは違い、求められるスキルも異なる業務です。そこで今回は、特に事務と経理の違いを解説するとともに、経理業務を代行することで業務効率化が図れることも紹介します。
経理と事務や会計・財務との違いは?
経理や会計はもちろん、総務部門や労務部門の事務などはバックオフィス業務(ノンコア業務)に該当します。規模の大きい企業なら、それぞれの部門ごとに担当者を配置することがあるものの、中小企業を中心に経理と他の事務の業務が混在していることも珍しくありません。しかし、実際には経理と他の部門の仕事は業務内容が異なります。ここではその違いについてまとめてみました。
経理と一般事務の違い
経理と総務や労務に携わる一般事務で大きく違う点は、経理がお金を扱うことです。例えば日々行われる仕入や売上などの取引、売掛金や買掛金、預貯金などの管理、経費の精算などの業務が挙げられます。具体的には伝票や帳簿への記帳、経理システムなどへの入力作業などを行っています。1カ月単位でみてみると、請求書の支払い業務や入金処理、月次報告書などの作成も大事な業務です。決算時期になると決算書類の作成や納税額の計算を行うなど、1カ月や1年単位でも決まった業務があります。
一般事務は多くの人がイメージするような基本的なオフィスワークが業務の中心で、社内のさまざまなサポートを行います。総務は広く従業員のサポートを行う業務や、従業員と経営陣をつなぐ業務を担当することが多い部門です。福利厚生にかかわる業務や社内イベントの企画運営、庶務業務も兼ねるなど、企業によって細かい業務は異なることがあります。労務では勤怠管理や給与計算、社会保険の手続きのような、主に従業員が安心して働ける環境作りに従事する業務が中心です。
経理と会計・財務の違い
お金に関する業務に従事するという点では、会計・財務は似ている部分もあります。しかし、細かいところでは違いがあり、同じではありません。経理は先述したように日々のお金の流れを把握し、管理するのが主な業務です。一方で、会計は資金管理などの業務も含まれ、会社全体のお金を把握する業務です。財務になると資金の調達や運用なども業務範囲に入ってきます。ただし、中小企業では経理が会計・財務を兼ねているケースが多く、はっきりと担当が分けられていない状況も少なくありません。
経理と事務に求められる人材やスキルの違い
業務内容が異なる経理と一般事務では、当然求められるスキルが違います。この段落では、経理業務をこなすために求められるスキルと、一般事務のような経理以外の事務で求められるスキルの違いについて解説していきます。
経理に求められるスキルとは?
経理業務では帳簿への記帳や入出金管理、経費精算や請求処理などを日々行わなければならないため、ある程度の経理に関連する知識が求められます。例えば簿記です。知識がなければできないというわけではないものの、スムーズに経理業務を行うためには一定以上の簿記の知識が必要でしょう。簿記3級では経理や会計の基礎が身についていると考えられ、簿記2級まで取得していれば財務諸表を読んで企業の経営状況まで把握できるようになります。
数字を扱う経理業務では、特に作業の正確性が求められます。1つ数字を間違えただけでも合計額や収支に影響する作業では、大きなミスにつながりかねません。そのため、経理担当者には正確でありながら、作業効率も上げられる情報処理能力が求められます。
一般事務に求められるスキルとは?
情報化が進む現代の事務仕事では、パソコンに関連するスキルは必須といっていいでしょう。企業がどのようなシステムを使っているのかにもよりますが、簡単なデータ入力にも困るようなスキルではスムーズに業務が行えません。また、日々の業務ではさまざまな書類作成をパソコンで行ったり、連絡をメールでやり取りしたりするのが当たり前になりました。どのような仕事を指示されても対応できるよう、最低限Officeを使いこなせる程度のパソコン知識は持っている必要があります。
また、一般事務でも作業の正確性やスピーディに処理できるスキルは求められます。さらに、電話応対や来客応対をする業務が含まれているのなら、会社の顔としてビジネスマナーを身につけていることも大事です。社内のスタッフや社外の人と関わりが多いのならコミュニケーションスキルも求められます。
経理または事務に向いている人は?適性の違いも知っておこう
では、実際に経理の担当者と一般事務の担当者では、適性の面で違いがあるのでしょうか。適材適所の配置を行うためにも、適性を把握しておくことが大事です。
経理には細かな数字や計算が得意な人
お金にまつわる業務を中心に担当する経理では、なによりも数字や計算に苦手意識を持っていないことが大事です。自ら計算機で足し算や引き算などをしなければならないことがあれば、エクセルなどに打ち込んで計算することもあります。どちらにしても、計算が嫌い、苦手という意識を持っていれば、毎日の仕事そのものが苦痛になるかもしれません。
経理は毎日数字を取り扱う業務を、延々と続けなければならない仕事なのです。それでも苦にならずに業務に従事できる人が経理の仕事に向いています。毎日似たような業務を繰り返して行うデスクワークも苦痛だと感じないことも大事です。
事務には臨機応変な対応ができる人
総務や労務、営業職のサポートなど、事務の仕事といっても多様なシチュエーションが考えられます。例えば、総務ならばイベントの企画や運営、営業事務ならば請求書や見積書の作成、法務事務ならば契約や取引内容のチェックなど、従事する職場によって実に業務の内容がさまざまです。また、日々の業務だけではなく、来客応対や電話応対も任されていることが多いです。
突発的な業務を依頼されることもあるため、その都度、臨機応変に対応できる人が向いています。状況を客観的に判断し、自分で考えて行動できることが大事です。できれば先読みできる力も備えていると、なお適性があります。指示を受ける前にある程度流れを予測し、下準備を整えておくことで、スムーズに業務を行うことにつながります。
事務と経理なら経理のほうがアウトソーシングしやすい!
経理と経理以外の一般的な事務を比較してみると、実はどちらもアウトソーシングすることが可能です。ただし、一般的な事務の場合は、企業や職種によって業務内容に多少違いがあります。アウトソーシングで一般事務を担当するスタッフのなかには、さまざまな企業で事務の経験を積んだ優秀な人もいるでしょう。ただ、同じ職種でも企業によって考え方や業務の手順が異なることもあり得るため、その企業に合わせた働き方をしなければなりません。
一方で、経理で行う業務は記帳業務や売掛金・買掛金の管理、財務諸表の作成など、ほぼすべての企業において内容が共通しています。税理士や公認会計士などのような専門家や、経理業務の経験を積んだスタッフを抱える経理代行業者などがアウトソーシングのサービスを展開しているため、依頼しやすいのもメリットです。
経理以外の事務でアウトソーシングできる業務は?
一般的な事務のなかでも、特にデータ入力や書類作成、チラシ作成などのノンコア業務はアウトソーシングしやすい業務です。また、自社のホームページを所有している企業も多くなっていますが、コア業務をこなしながら、こまめに更新するのは意外と負担がかかるのではないでしょうか。できれば自社の最新情報を提供するためにも、常にホームページに気を配っておきたいところです。ホームページの制作から更新、SNS運用なども、ホームページ制作会社のようなインターネットを駆使した業務に強いところに依頼する選択肢もあります。
求人サイトの原稿作成や、応募者の一時対応など、人事に関連する分野もアウトソーシングしやすい業務です。面接設定まで行ってもらえれば、自社で対応しなければならない業務をかなり減らせるでしょう。ほかにも、給与計算などの労務分野もアウトソーシングに向いています。
事務や経理の業務を効率的に行う方法を紹介
事務や経理の業務は、やり方次第で現状よりも効率化することが可能です。ただ、最適な方法は、会社のリソースによっても異なります。この段落では、さまざまなシチュエーションで考えられる効果的な事務・経理の業務効率化の方法をまとめてみました。
業務にかかわる情報は社内で整理・共有しておこう
特に業務がマニュアル化されていない中小企業の場合、事務を担当していた従業員が突然退職してしまうと、誰もその業務が分からないという状況が起こり得ます。もちろん、中小企業だけではなく、大企業でも起こる可能性のあることです。すぐに他の人材で対応することが難しいケースもあり、業務に支障をきたすことにもなりかねません。そうならないためには、業務の進め方はもちろん、どこに何があるのかなど、情報を普段から共有しておくことが大事です。
ITソフトを活用してみよう
さまざまな会社から、経理ソフトや会計ソフトなどが提供されるようになりました。特に数字を取り扱う経理では、手書きや手計算で業務を行うよりもITソフトを使うことで、はるかに効率化が図れます。比較的容易に取り入れやすく、経理の知識が少ない人でも使いやすいところがメリットです。フォロー体制も整っているため、なにかあってもスピーディに問題解決できます。
可能な部分はアウトソーシングする
自社の業務のなかで、アウトソーシングできるところがないかどうか考えてみましょう。例えば、日々の記帳業務や決算書類の作成などの経理業務、給与計算業務、年末調整業務など、ノンコア業務を特に検討してみてください。自社で行いたい部分があれば無理にアウトソーシングにする必要はありませんが、ピンポイントで少しずつでも専門業者に任せるのがおすすめです。特にコア業務をこなしながら経理や事務の業務も抱えているのなら、アウトソーシングを上手に利用することで負担が減り、コア業務により集中できるでしょう。プロに任せればミスも減ります。また、自社の状況に合わせて、忙しい時期だけアウトソーシングを活用することも可能です。
定型業務にはRPAの導入を考えてみる
RPAとは、Robotic Process Automationの略で、これまで人が行ってきた業務を自動化することを指します。決まった手順で行われる定型業務や大量のデータ処理、複数のアプリケーションを横断するような業務などが、RPAで自動化できる業務です。経理業務で行われる記帳作業や各種帳票の作成、経費精算、入金の消し込みなどは、特にRPAに向いているといわれています。ある程度決まったタイミングで発生する定型業務があるのならば、自動化ツールの導入も検討してみるといいでしょう。
外部の専門家との連携も検討してみよう
経理業務や税務で大きなミスがあると、企業の評判にもかかわります。また、信頼している従業員であっても、絶対に不正が起こらないとはいいきれません。特にお金が関連する業務では、正確性と公正さが求められます。ミスや不正を防ぐためにも、税理士や公認会計士などの専門家と連携しておくことが大事です。経理や会計、財務で分からないことがあれば、アドバイスをもらうこともできるでしょう。
適切なアウトソーシング先を選ぶために必要なポイント
アウトソーシングサービスを展開している業者のなかには、それぞれ得意な分野を持っていることがあります。経理業務をアウトソーシングしたいのなら、経理業務を専門にした業者を選ぶ必要があるでしょう。適切なアウトソーシング先を探すためにも、まずはどの業務を外注するのかを決めることが大事です。また、アウトソーシングにするといっても、すべての業務を外注したいわけではなく、自社で行いたい部分があることも考えられます。アウトソーシングしたい業務が見つかったら、どの部分を自社で担当し、どこからをアウトソーシングに任せるのかなど、役割や責任分担を事前にはっきりさせておきましょう。そのうえで自社のニーズとマッチする業者を選ぶことが重要です。
経理や事務の業務効率化に!必要に応じてアウトソーシングも検討を
経理と一般的な事務では、細かくみると業務内容や求められるスキル、適性などに違いがあります。企業のなかにはコア業務を行いながら、経理や事務の業務も同時に担当している従業員を抱えているところも多いのではないでしょうか。定型業務が多い経理や事務の業務なら、アウトソーシングを活用できる領域もあります。自社の業務を見直し、効率化を図ることで、従業員の負担を減らすことも検討してみてはいかがでしょうか。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。