経理業務は企業を運営していくうえで欠かせない業務です。しかし、ときには経営者や担当者にとって負担になることもあるでしょう。経理業務を効率化できる方法として、経理ソフトの導入があります。この記事では経理ソフトを導入することで得られるメリットと注意しておきたいデメリットを解説するとともに、おすすめの経理ソフトも紹介しますので参考にしてください。
そもそも経理ソフト(会計ソフト)とは?導入することで何ができるのか紹介
経理ソフト(会計ソフト)とは、企業の経理業務をシステム上で行えるソフトです。従来の経理では総勘定元帳や現金出納帳など、帳簿は紙のものを使っていたのではないでしょうか。売掛金や買掛金、損益計算書や貸借対照表なども、すべて手作業で書き入れていたはずです。パソコンが普及してからは、エクセルなどの表計算ソフトを活用して管理している企業もあるかもしれません。日々の取引をシステムに入力するだけで自動計算され、決算期には決算書類の作成まで行えます。経理ソフトは企業の経理や会計業務に特化したシステムであり、さまざまなタイプの経理ソフトがリリースされるようになりました。
中小企業が経理ソフトを導入する3つのメリット
経理ソフトを導入することで、特に中小企業には以下のようなメリットが期待できます。
業務の効率化が図れる
取引内容を入力すると自動で総勘定元帳にも反映するなど、経理ソフトでは多くの部分が自動化されています。紙ベースの帳簿付けでは入出金や売掛金、買掛金が発生した際、仕訳帳や総勘定元帳などにも転記しなければなりませんでした。その分の手間が省けるのは大きなメリットです。経理だけに専念する人材を確保できない中小企業では、社長や営業職などが経理業務も兼ねていることも少なくありません。経理ソフトの活用で経理業務の効率化が図れれば、コア業務に集中できる時間も多く取れるでしょう。経理業務にとどまらず、企業全体の業務効率化にもつながります。
また、経理担当者として帳簿付けや決算業務を行うためには、簿記の知識も必要とします。しかし、経理ソフトならば、それほど簿記の知識が無くても業務に従事することが可能です。自動化されていることで計算ミスや転記ミスが発生するリスクも減らせます。
自社の財務状況を把握しやすい
経理ソフトを使うことで作業を自動化できるだけではなく、データの可視化も容易になるため、常に最新の状況を把握しやすくなります。現時点での状況をリアルタイムで把握できると、問題点や改善が必要なポイントもつかみやすくなるでしょう。過去の状況との比較も交えて、経営戦略を練ることも可能です。将来に向けて先行投資をすることが得策かどうかのヒントも得やすくなります。
税制改正にも対応が可能
経理や会計に関連する分野では、頻繁に税制改正が行われます。改正された部分を把握しておかなければ、正しい経理処理ができません。従来のように自動化されたシステムが存在しない環境では、常に税制改正が行われるかどうか注意しておく必要がありました。しかし、経理ソフトでは税制改正があると自動で反映されるシステムが多く、その点でも担当者の負担を減らせます。
注意しておきたい中小企業が経理ソフトを導入するデメリット
中小企業にとって経理ソフトを導入するメリットは大きいですが、実際に活用を検討するときには注意しておきたいデメリットもあります。
初期費用およびランニングコストがかかる
経理ソフトを利用するためには、ソフトの購入代金や維持管理費などの費用が必要です。無料ソフトや無料版・有償版の両方を取り扱っているメーカーもありますが、無料のタイプは取引数や仕訳数が限られていたり、使える機能が限られていたりなど、必要な機能が使えないこともあります。導入する際は、初期費用やランニングコストを把握したうえで自社に合うものを選ぶことが大事です。
慣れるまでは労力が必要
経理ソフトを使うといっても、経理業務を全くしなくていいわけではありません。紙の帳簿への記入をしなくていい代わりに入力作業は行わなければならず、チェック作業も必要です。メリットで紹介したように、自動化されていることで全体としては作業工程が減るでしょう。しかし、慣れないうちは不明点が出てきたときに調べなければならないなど、余計な手間がかかることも考えられます。
セキュリティ面やネットワークの環境対策が必要
後述しますが、経理ソフトのなかでもクラウド型と呼ばれるタイプは、インターネットに接続できる環境がなければ使えません。接続できていても、動作が不安定な状態や速度が遅い環境では、作業がスムーズに進まないことも考えられます。インターネットの接続でトラブルが発生することが多ければ、かえって作業効率が悪くなるうえ、担当者のストレスにもなるでしょう。問題なくインターネットが使える環境を整えることが大事です。また、各メーカーではセキュリティ対策に力を入れていますが、インターネットに接続する以上は全くリスクがないとはいえないことも理解しておきましょう。
中小企業向けの経理ソフトにはどのような種類がある?
中小企業が使いやすい経理ソフトには、大きく分けて「クラウド型」と「インストール型」の2つがあります。以下でそれぞれの特徴を解説しますので、ソフト選びの参考にしてください。
インターネット経由で利用するクラウド型
クラウド型の経理ソフトはインターネットに接続し、クラウド上にある会計ソフトを利用する仕組みです。自社でサーバーを用意したりソフトをインストールしたりする必要がありません。税制改正があったときなども特に自社でアップデートなどの作業をする必要もなく、インターネットに接続できればどこでも利用可能です。パソコンはもちろん、タブレットやスマートフォンなども使えるシステムが多く、テレワークにも活用できます。インターネット上でデータを共有できるため、税理士などの専門家との連携がしやすいのもメリットです。バックアップもデータセンター上でされているため安心です。ただし、初期費用は安いタイプが多いものの、1カ月単位や1年単位で利用料が発生します。
パソコンやシステムにインストールして利用するインストー型(パッケージ型・オンプレミス)
インストール型やパッケージ型、オンプレミス型と呼ばれるタイプは、パソコンや自社のシステムにダウンロードして利用する仕組みです。買取型であり、クラウド型のように毎月や毎年利用料を支払う必要はありません。ただし、初期費用は高くなりがちです。インストール型は自社の業務に合わせたカスタマイズがしやすいメリットがあり、インターネット環境に左右されないため動作も安定しています。ただし、法改正があったときなどはアップデートが必要です。また、インストールしたパソコンやシステムが破損した場合は使えなくなったり、税理士など社外とのデータ共有が難しかったりします。
中小企業におすすめの経理ソフト5選
ここからは具体的に中小企業が導入するのにおすすめの経理ソフトを5つピックアップして紹介します。
クラウド会計freee
- クラウド型
- ベーシックプラン:月4378円(税込)30日間無料
- 全国ほぼすべての銀行との連携が可能
2021年12月時点で全国33万社以上の利用がある、クラウド型の代表的な経理ソフトです。記帳の効率化と決算書類の作成など、基本的な機能だけがほしいのなら月1980円のミニマムプランでも対応できますが、経理全体を効率化し、成長も見込んで数字を可視化したいのならベーシックプランがおすすめです。
弥生会計オンライン
- クラウド型
- 年3万3000円(税込)1年間無料でお試し可
- WindowsはもちろんMacも可
必要な機能がシンプルに搭載されているため、特に5名以下の小規模な会社や起業したての会社におすすめのソフトです。取引データはスキャンやスマートフォンのアプリで簡単に取り込めます。集計結果は分かりやすいグラフで表示されるため、経営状態の把握もしやすいでしょう。弥生PAP会員の会計事務所との間なら、スムーズにデータのやり取りも可能です。
マネーフォワード クラウド会計Plus
- クラウド型
- 料金は個別の状況に合わせて無料見積もり
- 電子帳簿保存法に対応
- 監査法人へのメール送付も可
バックオフィスの効率化や低コストで内部統制に対応したいなど、中堅企業やIPOを目指す企業向きのクラウド型経理ソフトです。画面設計は経理業務に沿っているため、直感的な操作ができます。電子帳簿保存法に必要な情報はスキャンしてデータ化でき、証憑添付時にも確認が可能です。仕訳と証憑類を同じ画面で確認できるなど、使い勝手もよく、チェック作業も効率化できます。
弥生会計 インストール型
- インストール型
- スタンダード:セルフプラン付き・ベーシックプラン付きが4万8400円(税込)、トータルプラン付きが7万2600円(税込)
- プロフェッショナル:セルフプラン付き・ベーシックプラン付きが8万8000円(税込)、トータルプラン付きが12万1000円(税込)
- 2台のパソコンにインストール可
連続23年売上No.1の実績があるほど、定番の経理ソフトです。従業員5名以下の企業にはスタンダード、従業員10名以上の中小企業なら部門管理や経営分析などもできるプロフェッショナルがおすすめです。取引データを自動で取り込み、AIで自動仕訳がされるため、経理ソフト初心者でも使いやすくなっています。データバックアップサービスや弥生IDを持つユーザー同士でのデータ共有サービスなど、クラウドとの連携も可能です。2台にインストールできるため、テレワーク用の自宅のパソコンにもインストールできます。
勘定奉行11 インストール型
- インストール型
- スタンドアロン:25万円から(オプション15万円から)、証憑保管オプション年間10万5600円(税込)
- クラウドへの移行も可
累計66万社、グループ企業導入実績250社以上の実績を持ち、税理士や会計士にも選ばれることが多い経理ソフトです。改正電子帳簿保存法に完全対応しながら、従来の会計業務との両立も可能です。他の会計関連の奉行シリーズと一緒に使うことで、よりスムーズに日常の経理処理から会計、税務に関わる業務まで一気通貫できます。幅広い企業のニーズに応えるため、経理ソフトも企業の規模やさまざまな業種に対応できるラインナップがあります。
経理ソフトを導入する前に確認すべきポイント
せっかく経理ソフトを導入するのなら、自社の業務に合うものを選びたいのではないでしょうか。導入するにあたっては、以下のポイントに気を配りながら準備を進めてください。
まず導入する目的を明確に
経理業務や会計業務自体は、経理ソフトを導入しなくても成り立ちます。しかし、経理ソフトの導入によって、業務の効率化などさまざまなメリットを享受できます。実際に導入を検討するときは、なぜ自社に経理ソフトを導入する必要があるのか、どの業務範囲に導入すれば効果的なのかなど、まずは目的をはっきりさせましょう。誰が利用することになるのかも、明確にしておくことが大事です。
経理ソフトの機能をしっかり確認
経理ソフトにはある程度共通した機能もありますが、利用できるユーザーの数などは製品によって違いがあります。また、従業員5名以下の会社にとって使いやすい機能を備えたものがあれば、中堅企業やIPOを目指す企業向けの製品もあるため、合わないタイプを選んでしまうと十分経理ソフトの良さを活かせないこともあるでしょう。権限の範囲や拡張性があるかどうか、会計以外の機能も利用できるのかなど、自社のニーズに合うものを選ぶためにも、機能をしっかり確認することが大切です。
万一のときのサポート体制
どのようなソフトでも、使っている間に分からないことが出てきたり、不具合が発生したりすることはあります。大事なのは、そのような状態が起こったときのサポート体制がどうなっているのかです。導入時はもちろん、利用を開始してからのサポート体制がどの程度充実しているのかも確認しておきましょう。無料トライアルの有無もチェックしてみてください。無料トライアルで実際の使い勝手をチェックできるため、期間がどのくらいなのか、トライアル中に機能が制限されているようなことがないかなどを確認し、本格導入の前に試してみるのもおすすめです。
電子帳簿保存法改正に対応しているかどうか
税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律として、電子帳簿保存法があります。従来は紙での保存が義務づけられてきた帳簿類について、要件を満たせば電磁的記録での保存が認められる法律です。つまり、経理ソフトで入力したデータやインターネットを通して取引したデータをそのまま保存できたり、書類をスキャナや写真などの画像データとして保存できたりします。デジタル化が進んできた情勢を踏まえ、2022年には電子帳簿保存法が改正されました。中小企業も例外ではなく、2024年1月1日からは電子帳簿保存法に沿った対応が求められます。経理ソフトにも電子帳簿保存法に対応したタイプがリリースされています。
セキュリティ対策
経理ソフトを導入するデメリットでも解説したように、特にクラウド型の経理ソフトを利用するときはセキュリティ面にも気をつける必要があります。経理ソフトを提供している会社がプライバシーマークを取得しているかどうか、通信が暗号化されているかどうかなどもチェックしましょう。
自社の状況を踏まえながらニーズに合った経理ソフトを導入してみましょう
インターネットが当たり前に使えるようになり、企業を取り巻く状況は数十年前とは大きく変わりました。経理業務にも便利なソフトがさまざまな会社からリリースされており、上手に活用すれば業務が効率化できるなどメリットもあります。改正電子帳簿保存法の施行によって、2024年からは電子取引のデータ保存も義務づけられます。今回紹介したおすすめの経理ソフトも参考にしながら、この機会に導入を検討してみてください。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。