経理業務効率化につながる業務フロー図とは?作成ポイントや方法、おすすめのツールを解説

経理業務効率化につながる業務フロー図とは?作成ポイントや方法、おすすめのツールを解説

事業の運営上かならず発生する業務のひとつに経理があります。経理業務は専門的な知識が必要で、業務内容も多岐にわたるため複雑になりやすく、大きな負担となりがちです。経理業務を効率化するのに有効な手法であるのが、業務フロー図の作成です。この記事では、経理業務における業務フロー図の作成ポイントや方法、業務効率化におすすめのツールを紹介します。経理業務の負担軽減や人員不足の対策に、ぜひ役立ててください。

経理業務に疲弊さを感じる理由

経理業務に疲弊さを感じる理由

経理は事務の中でも複雑で難しいと言われる職種のひとつであり、疲弊感を感じる人も多い傾向にあります。経理業務が大変と感じる主な理由を解説します。

専門知識が求められる

経理業務は以下のように資産、資金、決済の3つのフローからなり、各フロー別に複数の業務が発生します。

経理業務大区分 経理業務小区分 業務内容
資産管理業務 販売管理

与信管理
受注業務
出荷業務
売上計上業務
債権残高管理
値引・割戻業務

購買管理 購入・契約
仕入計上
債務残高管理
値引・割戻業務
在庫管理 販売を目的とした製品、商品、仕掛品、原材料のコントロール
固定資産管理 有形固定資産管理
無形固定資産管理
投資その他の資産管理
資金管理 現金管理 出入金業務
現金管理業務
現金預金の残高管理
出入金管理 借入契約の締結
借入利息の支払い
借入の返済
決算業務 単体決済 ステークホルダー(株主や投資家)への財務報告
連結決済 支配従属関係にある企業を単一的なグループとみなしたうえで全体の財政や経営成績、キャッシュフロー状況の把握

いずれの業務も処理するためには売掛金、買掛金、債務や債権などの専門的な知識が必要です。経理業務を進める上で必要なスキルの習得、また人材の確保が求められることも、経理業務が難しいと感じる理由のひとつといえるでしょう。

ひとつのミスが大きな問題につながる

企業の三大資産である「人、物、金」のうち「金」を取り扱う経理業務は、ひとつのミスが大きな問題につながるリスクがあります。たとえば振込先や金額の数字をひとつ間違えただけでも、払い戻しや組み戻しの手間が生じ、最悪の場合振り込んだお金が戻ってこない可能性もあるでしょう。

ミスを防ぐために何重ものチェックや管理体制を整え、慎重に業務を行う必要があるのも、経理業務の負担につながっています。

日々の業務に加え決算業務がある

経理業務は日々行う日次業務、毎月決められたサイクルで行う月次業務や月次決算、さらに以下のような決算期に行う年次業務も発生します。

経理業務の種類 業務内容
日次業務 経費精算
売上や買掛金の管理
出納 など
月次業務 帳簿の締め切り
取引先からの入金確認や催促
源泉徴収税納付
給与の支払い
取引先への請求書送付
取引先への支払
買掛金のチェック
社会保険料の月末納付
月次決算 勘定残高の確認と照合
月次決算
四半期決算
予算対比分析
経営層への月次報告
年次業務(社内対応) 棚卸し
予算残高の確認
年次決算整理
資産評価
有価証券の評価替え
財務諸表などの決算書類作成
税務申告書作成
株式総会の準備
年次業務(社外対応) 監査対応
消費税申告
株主総会
法人税申告
消費税申告申請

決算期や税務調査時には税理業務として行うべきことが増えますが、日時業務や月次業務も並行しなければいけません。時期によって業務タスクが変動することも、経理業務の負担につながります。

経理業務を効率化するには業務フロー図がおすすめ

経理業務を効率化するには業務フロー図がおすすめ

複雑になりやすい経理業務を効率化するための、有効かつ重要な役割を果たすのが「業務フロー図」です。ここでは、業務フロー図の概要や目的を解説します。

業務フロー図を作成する目的とは?

業務フロー図とは、業務の内容や手順を図式化したものです。経理以外のさまざまな業務、業界でも取り入れられています。業務フロー図は、以下のような目的で作成されています。

  • 図式にすることによる業務の視覚化、標準化
  • 業務の問題の発見
  • 担当者および他部署間の業務の把握、関係者との相互理解
  • 業務の保守性、拡張性の向上

経理の業務フロー図の例

経理の業務フロー図の例

(参考:押田税理士事務所|業務フローをチェックして経理業務の改善より引用)

工事部におけるガス工事実行予算組時業務フロー図

経理の業務フロー図を作成する前にやっておくべきこと

経理の業務フロー図を作成する前段階で進めておくべき工程が4つあります。それぞれの具体的な工程についてここで解説していきます。

業務フロー図を作成する目的を明確にする

業務フロー図を作成する目的を明確にすることで、どの程度内容を詳細に記載するかの目安が分かります。おもな業務フロー図を作成する目的には、以下のものがあります。

  • 自分の覚書
  • 引継ぎ用のマニュアルへの追加用
  • クライアントへの業務説明用
  • 業務改善用
  • 内容は現在の業務に忠実か、理想か

記載が必要なタスクを選定する

業務の手順や作業、処理などのタスクを全て選定します。開始や終了のタイミング、判断が必要な状況など、詳細な手順やタスクをもれなくリストアップしておきましょう。

担当者や関係部署を洗い出す

記載する業務に関わる担当者や部署、クライアントなど全ての関係者を書き出します。なおここで洗い出した関係者は、後ほど説明する業務フローのスイムレーンへ追加する場合もあります。

タスクを時系列に並べ替える

リストアップした手順やタスクを、業務フローへの記載が必要かどうかで分別します。記載が必要と判断した手順やタスクは、実際の業務の内容と照らし合わせながら時系列に並び変えておきましょう。

経理の業務フロー図の作成方法

経理の業務フロー図の作成方法

事前の準備が終わったら、実際に業務フロー図を作成していきます。経理の業務フロー図の作成方法を順に解説していきます。

業務フロー図に使用する記号と図形を決める

内容に応じた記号や図形を使って業務フロー図を作成していきます。おもな業務フロー図に使用する記号や図形には以下のものがあります。

・処理
長方形の図形は業務フローでもっとも多く使われる記号で、一般的な処理や作業を指します。

・条件分岐
「判断:Yes or No」や「真偽:True / False」を指すひし型の図形で、繰り返し処理や選択によって次の行動が分岐する場合に使われます。

・書類・帳簿
稟議書、請求書、ポイントカードなど処理で発生する書類や帳簿を表すときに使われる図形です。

・接続・外部結合子
後のフローが別の場所に記載されている場合や、業務フローが複数ページにわたる場合に使用するホームベース型の図形です。図形の中に接続するページ番号などを記載します。

・サブプロセス
業務フローが多岐にわたる場合に使用します。業務フローを1マイにまとめず細分化することで整理され、見やすいフロー図作成に役立つ図形です。

・データベース・システム・磁気ディスク
業務の処理や作業上でデータがシステム上に入出力または保存されるときに使用する図形です。

スイムレーンを作成

スイムレーンとは、関係者ごとの業務フロー図を記載していく枠組みを指します。プール全体を業務に見立て、レーンに関係者を配置することからスイムレーンと呼ばれています。

タスクをスイムレーンに置く

時系列に並べておいた手順やタスクを、作業内容に応じて記号を使いスイムレーンの中に書き込んでいきます。

タスクを矢印でつなぐ

手順やタスクの流れに沿って、記号を使ったタスクを矢印でつなぎます。「売掛処理がある・ない」「請求書が手元に届いている・届いていない」などの条件分岐がある場合には、矢印上に追加します。

経理の業務フロー図の作成に役立つおすすめツールやサービス

業務フロー図は特別なソフトを使い、手書きすることもできますが、業務内容が複雑かつ多岐にわたる経理の業務フロー図は、ツールやサービスを活用したほうがスムーズに作成できます。経理の業務フロー図の作成に活用できるツールやサービスについて解説します。

クラウド型の作成ツールを導入する

業務フロー図を簡単に作成できる、クラウド型のツールを導入する方法があります。

メリット

  • 関係者と作業や作成した業務フロー図の共有がしやすい
  • 場所を選ばず複数人で同時に作業ができる
  • エクセルやパワーポイントなどのソフトよりもかんたんに業務フロー図が作成できる
  • 作業内容に変更があったときもかんたんに修正できる
  • 無料で利用できるツールもある

デメリット

  • 有料ツールの場合毎月のコストが発生する
  • ツールによって機能やできることが異なるため、制約がある
  • 設定が難しい場合がある

機能や操作性、毎月のコストなどはツールによって異なります。経理業務の内容や自社の持つ業務フローに関する課題解決に合致したツールを選ぶのが重要です。ツールによってはデモ体験などで短期間お試しで使用できるものもありますので、まずはいろいろなツールを試し、自社に合うものを選びましょう。

専門業者に依頼する

業務フロー図作成が難しい場合や、作成する人員や時間がたりないときには、専門業者へ依頼する方法もあります。専門業者へ依頼することで、タスクや関係者の洗い出しなどの事前準備から業務フロー図作成の対応を代行依頼することができます。

経理業務そのものをアウトソーシングできるバックオフィス業務の専門業者を利用する方法も有効です。たとえば「まるごとバックオフィス」なら、経理はもちろん総務や人事、労務など必要なバックオフィス業務をすべてお任せできます。多岐にわたるバックオフィス業務をまるごとトータルサポートできるため、業務効率化を目指したい業務に応じて依頼が可能です。

経理の業務フロー図の作成する上での注意点

経理の業務フロー図の作成する上での注意点

経理の業務フロー図を作成する上で覚えておきたい注意点を解説します。

誰が見ても見やすいフロー図にする

業務の内容や手順を明確にするため、多くの記号を使うのは逆効果です。使用する記号は最低限にとどめ、矢印などの接続線を分かりやすくつなげることで、シンプルで整理された、見やすい業務フロー図が完成します。業務フロー図は多くの関係者との共有を目的としているため、見やすく分かりやすいフロー図の作成を心がけましょう。

フロー図に対して新しく変更や更新が必要となった場合は、都度書き込みを行いましょう。基本となる業務フロー図はシンプルに作成し、必要に応じて変更や追加を行います。より精度の高い業務フロー図へ作りこんでいきましょう。

記載するタスクのレベルはなるべく均一にする

業務フロー図のスイムレーンに記載する作業やタスクのレベルはなるべく同じ粒度で入力するようにしましょう。「こまかい作業」と「荒い作業」が同じ業務フロー図に含まれているとわかりづらく業務に支障が出ますので、一定の粒度で入力されているか注視しましょう。

自分が担当している業務のフロー図を作成する場合も注意が必要です。自分が熟知している作業は細かく記載し、関係者・関係部署の業務など自分があまり知らない業務は粗く書いてしまう傾向にあります。自分のメモ代わりの業務フロー図を作成する場合はそれでも問題ありませんが、関係者と共有する場合は、業務フロー図としての役割を果たせなくなってしまいます。粗く書かれている業務内容については、問題点や改善点が発見しにくいといったデメリットも発生します。できるだけひとつの業務フローに記載する作業のレベルは均一化するようにしましょう。

まとめ

経理の業務フロー図作成の目的や作成方法、注意点などを解説しました。大変、難しいと感じる経理業務を効率化するためには、業務の内容や手順を整理して全体像が把握できる、業務フロー図の作成が有効です。ただし、業務フロー図作成そのものが負担となり、大本である経理業務に支障が出るのは本末転倒となります。共有しやすいクラウド型ツールや、経理業務をはじめとしたバックオフィス業務をそのまま依頼できるサービスなどの活用も視野に入れて、経理業務の効率化につなげましょう。

記事の監修者

【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】

株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊

中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。