クリニックでは診療以外にも、日々さまざまなバックオフィス業務が発生します。医師や院長は本業の医療や経営に注力したいものですよね。しかし、実際には煩雑な事務業務に追われ、なかなか本業に集中できないと悩むケースも多くみられます。こうした悩みを解消するため、おすすめなのが業務の外注です。そこで、この記事ではクリニックがバックオフィス業務を外注するメリットやサービス選びのポイントを解説します。
バックオフィス業務を外注するクリニックが増加中!その理由とは
経営環境の変化スピードが速まるなか、採用・労務・営業などさまざまな業務を外注する企業が増えています。これは一般企業だけではなく、クリニック業界にもその傾向がうかがえます。そもそもバックオフィスはクリニック運営のために必要な役割を持つものの、直接売上にはつながらない後方支援業務です。いわゆる「非コア業務」に該当し、日々の事務業務を負担に感じる医院も多いものです。こうした負担や悩みを解消して本業に専念するためにも、業務プロセスを一括して外部委託する「BPO」を取り入れる歯科医院やクリニックが増えています。
外注可能なクリニック業界のバックオフィス業務とは?
バックオフィス業務を外注する企業が増加傾向にありますが、実際にどのような内容を任せているのでしょうか。そこで、ここでは外注可能なバックオフィス業務について解説します。
1.経理事務に関する業務
クリニックにおける一般的な経理事務の業務内容としては、決算業務や経営幹部への資料作成、請求書作成・支払処理や出納業務などが挙げられます。外注できるバックオフィス業務は、主に「記帳代行」「従業員の給与計算」「年末調整」などです。クリニックでは経理や金銭管理に関する業務負担が大きくなりがちです。外注によって業務負担を軽くでき、時間的にも精神的にもゆとりが生まれます。
2.人事・労務事務に関する業務
クリニックにおける一般的な人事・労務事務の業務内容としては、労働管理や給与・福利厚生計算、安全衛生管理や社員に関する各種手続きなどが挙げられます。外注できる代表的なバックオフィス業務は「社会保険・労働保険手続き」「就業規則・各種規程作成」「給与体系・賃金制度のコンサルティング」などです。クリニックが抱える悩みとして多いのが、労務管理の問題です。クリニック運営においてスタッフの雇用管理や人事情報の情報管理などは非常に重要なものといえます。とはいえ、情報の管理が煩雑で手間取るケースも少なくありません。複雑な人事・労務に関する業務を外注することによって、管理の手間を軽減できます。
3.総務事務に関する業務
クリニックにおける一般的な総務事務の業務内容としては「シフト管理」「行政機関の届出」「イベントの準備・手配」「スタッフの管理・評価」「マニュアル作成」などが挙げられます。外注できるバックオフィス業務は、主に「シフト作成やタイムカード集計」「各種行政書類の作成・手続き」「マニュアル作成」などです。行政機関への届出やマニュアル作りなどは専門性が高く、業務に時間がかかります。外注によって煩雑な各種書類作成や手続きを任せられ、クリニックの補佐的な役割を果たしてもらえます。
4.採用業務に関する業務
クリニックにおける一般的な採用の業務内容は「新卒・中途などの採用業務」「採用イベントの参加」「求人の手配」などが挙げられます。外注できるバックオフィス業務は、主に「採用面接」「求人手配」「イベントの企画・運営」などです。人材の質はクリニックの印象・評判を左右する重要な要素です。だからこそ、採用活動に力を入れたい、理想とする人材を獲得したいと考えるクリニックの院長も多いでしょう。しかし、実際には診療で手一杯で採用活動まで手が回らないケースも多いものです。外注によって、事業方針に合わせた人材採用を行えるようになります。外注先と相談しながら採用者を決定でき、心強いパートナーとなってくれるでしょう。
バックオフィス業務を外注することによる3つのメリット
クリニックのバックオフィス業務を外注することによって、さまざまなメリットを享受できます。ここでは、代表的なメリットを3つ見ていきましょう。
1.コア業務に注力できる
クリニックの運用において、最も重要な資源とは「院長の時間」に他なりません。この貴重な資源を医療の質向上や経営判断など、付加価値の高い仕事に注ぎ込むことがクリニック運用において重要です。バックオフィス業務を外注することによって、クリニック経営者の時間を創出できるようになります。その結果、本業となる治療時間や経営視点、売上向上のための業務などに集中できます。
2.人件費などのコストカットにつなげられる
バックオフィス業務の専任者を直接雇用する場合、固定費として毎月の給料に加え、社会保険料や交通費などさまざまなコストが発生します。特に経理などは月初や期末日以降など特定の時期に仕事が集中しやすく、業務量に波があるケースも多いものです。経理の専任者を直接雇用せず必要なときに業務を外注すれば、無駄な費用が発生せずコストカットにつなげられます。費用を抑えながら効率的な業務が可能になるでしょう。
3.人為的ミスを削減できる
日々大量のバックオフィス業務に追われていると、どうしても人為的ミスが発生しやすくなるものです。特に忙しさからスタッフの教育に時間をかけていないクリニックでは、ミスが発生するリスクが高まるでしょう。バックオフィスの専門業者に外注することによって、ミスの少ない業務が可能になります。十分な知識と経験を持つ業者であれば業務スピードも向上し、安心して任せられるでしょう。
バックオフィス業務を外注することによる2つのデメリット
バックオフィス業務の外注は多くのメリットがある一方、デメリットもあります。ここでは外注前にチェックしておきたいデメリットを2つ紹介します。
1.セキュリティ面に不安がある
1つ目のデメリットとなるのが、セキュリティ面の不安です。これは経営状況や人事情報など、院内の機密情報を外注先と共有するために起こる問題です。クリニックのバックオフィス業務を外注する場合、多くは機密情報に該当する情報を開示することになります。万が一のトラブルを避けるためにも、契約前に機密情報保持やセキュリティ対策がされたクラウドツールを使用しているかなどの情報をよく確認しましょう。
2.ノウハウや経験が蓄積されにくい
2つ目のデメリットは院内にノウハウや経験が蓄積されにくくなることです。外注すると知識や経験の豊富な外部人材が活躍し、業務効率が上がるかもしれません。しかし、長期的に考えると自院のスタッフが担当する業務が減り、結果としてノウハウや経験が蓄積されない状態になってしまいます。特に専門性の高い業務を外注する場合、院内スタッフが対応しないとノウハウや経験が残らず後々運営に困ってしまう可能性があります。
どこに依頼すればいい?バックオフィス業務の外注先とは
実際にバックオフィス業務を外注したいと考えたとき、どこに依頼すれば良いのか悩んでしまう人もいるのではないでしょうか。そこで、ここではバックオフィス業務の代表的な外注先を紹介します。
クリニック専門のバックオフィス代行業者
クリニック専門のバックオフィス代行業者は、業務を丸ごと任せられることが魅力です。たとえば、経理関連業務に特化した業者もいれば、オンライン秘書サービスを提供している業者など、それぞれ特徴や強みが異なります。したがって、自院がどのような業務を外注したいのか、あらかじめ洗い出したうえで業者を選定することがおすすめです。
税理士や公認会計士などの専門家
クリニックの運営において、避けて通れないのが確定申告や税務関連の業務でしょう。これらの業務は複雑な内容を含んでおり、業務のサポートが必要な場合は、税理士や公認会計士などの専門家に依頼することがおすすめです。銀行・弁護士・司法書士などとも提携しているケースが多いため、ワンストップでの外注が可能です。なお、依頼内容によって報酬がかかる点に留意しましょう。
どう選ぶ?外注サービスの選び方とポイント
外注サービスを選ぶ際、何を基準にすればいいのか悩んでしまうものですよね。そこで、ここでは外注サービスの選び方とポイントを紹介します。
1.これまでの実績で選ぶ
外注サービスと契約を結ぶ前に、目を通しておきたいのが実績です。委託したい業務の実績が多ければ多いほど、十分なノウハウを持っている可能性が高まります。そのぶん成果物の質も期待でき、安心して業務を任せられます。実績のある外注先であれば信頼でき、成果物の内容を細かくチェックせずに済むでしょう。
2.対応できる業務範囲で選ぶ
外注を検討する際、忘れずに確認したいのが対応可能な業務範囲です。どのような業務をどの範囲まで対応できるのか、契約前に確認しておきましょう。最初は簡単な業務のみ依頼している場合でも、途中でより多くの業務を任せたくなるケースも多いものです。このようなときに、対応できる業務範囲が広い外注先であれば、相談をしてそのまま任せられる可能性があります。より多くの業務を外注する可能性がある場合や、プロセスごと丸投げしたい場合などは、対応可能な業務範囲の広さを基準に選ぶことも一案です。
3.コスト・予算から選ぶ
外注サービスを選ぶ際、かかる費用も重要なポイントとなります。特に継続的な依頼を考えている場合は、自院の運営に負担がかからないよう、おおむねの予算を考えておくと安心でしょう。とはいえ、単純に安さだけで外注先を選ぶことは避けたほうが無難です。なぜなら、安さのみを売りにするサービスは、人員や工程を削っていたり、品質が低かったりする可能性があるためです。予算を超えないことを念頭に置きつつ、品質も考慮してサービスを選びましょう。
バックオフィス業務を外注する場合の料金体系とは?
バックオフィス業務を外注する際、主な料金体系は「月額制」「従量制」の2種類があります。ここでは、それぞれの料金の仕組みや特徴、相場の目安について解説します。なお、料金は依頼先によっても大きく異なり、あくまでも目安です。詳細は各企業に問い合わせて確認しましょう。
月額制
月額制とは、その月ごとにあらかじめ決まった報酬額を支払う料金体系をいいます。料金が固定されているため、毎月かかる費用を把握しやすいことが特徴です。また、決められた料金を支払えば、業務量に左右されず依頼できることがメリットとなります。したがって、毎月依頼する業務量が多いクリニックにおすすめです。相場は依頼する企業や内容によっても異なりますが、経営補佐の場合月2回程度の訪問で15~28万6000円程度が一つの目安となります。なお、月額制はひと月あたりの稼働時間で区切ったプランが用意されているケースが多くみられます。時間を超過した場合、割高な金額となる可能性がある点に留意しましょう。
従量制
従量制とは、稼働時間や数量に応じて支払う料金が決定する料金体系のことです。もし利用がない場合は料金が発生しません。そのため、利用したぶんだけ料金を支払えば済み、無駄なコストが発生しないことが特徴です。一例として、レセプト業務を外注する場合、外来1件につき100円程度で外注できるサービスもみられます。ただし、従量制は診療科目や診療内容などによっても料金が異なり、一概にいくらが目安とはいえません。気になる企業に問い合わせ、料金シミュレーションをしてみることがおすすめです。
バックオフィス業務を外注する前にチェック!注意すべき2つのポイント
バックオフィス業務を外注する前に、チェックしておきたい注意点がいくつかあります。ここでは、注意点を2つ紹介します。
1.対応可能な業務範囲を把握する
1つ目は対応可能な業務範囲を確認することです。どの業務のどのレベルの作業まで対応できるのか、前もってリサーチしておく必要があります。自院の想定する業務の量やレベルと外注先の対応可能な業務範囲が合っているか、確認しておきましょう。あわせて、対応可能な時間帯なども確認しておくことがおすすめです。
2.外注先の専門性を確認する
2つ目は外注先の専門性を確認することです。外注先は自院の業務をともに担う、パートナーとなる存在です。自院のさらなる成長のためにも、十分なスキルや資格、経験や実績があるのかチェックしておく必要があります。ただし、専門性が高くなればなるほど、費用も高くなりやすいものです。費用と専門性のバランスを加味し、自院に合うパートナーを見つけましょう。
クリニックのバックオフィス業務にもう悩まない!信頼できる外注先を探そう
クリニックではさまざまなバックオフィス業務が発生します。本業に注力し、業務を効率化させるためには、バックオフィス業務を外注することも良い方法です。経理や人事・労務、総務や採用業務など、幅広い業務を外注することができます。外注によって業務負担が減り、時間を有効活用できるようになります。サービス選びのポイントを押さえて、自院をサポートしてくれる外注先を見つけましょう。
記事の監修者
【中小企業バックオフィス体制づくりのプロ】
株式会社バックオフィス・ディレクション 代表取締役 稲葉 光俊
中央大学経済学部経済学研究科(大学院)卒業後、事業会社にて管理部門のマネージャーとして株式公開(上場)準備作業を経験。 中小企業の成長に欠かせないバックオフィス部門(総務、労務、人事、経理、財務、法務、広報等)を責任者として統括し、事業会社の社内整備と仕組みづくりを行う。 2022年株式会社バックオフィス・ディレクションを設立し、地方中小企業を対象としたバックオフィス強化のためのコンサルティングやクラウドを活用したDX化および業務アウトソーシングを主にしたサービスを提供し、伴走型支援に力を入れている。